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身も心も 29

 ガーゼに覆われた部分を避け、俺は翠の身体の清拭を続けていた。  翠が寒くないように下半身をバスタオル等で覆い、それから軽く深呼吸した。    胸部を肋骨に沿って丁寧に清めていると、怪しいマッサージをしている気分になってきた。翠の乳首をそっと確認すると、ツンと立ち上がり微かに震えていた。  感じているのか、嬉しいよ。 「次は腹だ」  腹部を「の」の字を描くように拭いてやると、いよいよ翠が困惑した表情になり、俺を見上げた。色素の薄い琥珀色の瞳が、今日は一際美しいと思った。吸い込まれそうだ。 「もういいよ、あとは自分で出来る」 「何を言って?」  翠が何かを決心したかのように目を瞑り、唇を薄く開いた。 「な……む……」    南無阿弥陀仏か! まずい! 無の境地に入るつもりか。  駄目だ! 今日はそれは絶対に駄目だ!  急いで自信の唇をムギュッと押し当てて、翠の読経を呑み込んだ。 「あっ……」 「翠、これはただの清拭だ。落ち着け、さぁ次は下肢だ」 「ううっ……分かった」  翠が、観念したかのように身体の力を抜いたので、今度は上半身をバスタオルで覆ってやった。そして翠の膝を立てさせ、足首から脚の付け根へかけて拭いて、次に膝裏、足指の間を丁寧に蒸しタオルで擦ってやった。  翠は足の指の形も綺麗だな。最近では爪を整えるのも俺の仕事にしている。  愛しい人の身体を、この手で清められる喜びをひしひしと感じていた。  目が見えなくなり戻って来た頃は、ここまで触れさせてもらえなかった。だが今はどうだ? 流……お前に全てを委ね、曝け出す兄の姿はどう映る?  自問自答してしまう。 「最高だ……」 「りゅ、流……これは清拭なんだろう?」 「まぁ、それはそうだが」 「では、そんな感想……変だ」 「ははっ、そうだな。さぁ横を向け」 「う……ん」  今度は……横向きになった翠の背中に猛烈な色気を感じ、溜まらない気持ちになった。腰から肩へ円を描くように拭きながら、今度翠を抱く時はこの体位をもいいななど、不埒なことを考えてしまった。  確か側位は、男のセックススキルが求められる上級者向けの体位だったよな。今度はお互い横になって、翠を後ろから抱きしめて挿入を楽しんでみよう。腰を激しく動かす体位ではないから、術後の翠にも負担がかかりにくく、もってこいだ。 「流……今、何を考えている?」 「あぁ、それは……今度はこの姿勢で抱きたいと」 「……流……僕の身体は、そんなにいいのか」 「当たり前だ。そういう翠はどうだ?」    意地悪な質問をすれば、翠が顔を真っ赤にして狼狽えていた。 「なぁ翠、正直に言ってくれよ」 「流は意地悪だ。今の僕がどんな状況になっているか知っていて言うのだから」  あぁ、知っているさ、知っているとも!   翠の股間が兆しているのを、俺はちゃんと知っている。 「翠、大丈夫だ。全部俺が清めてやるから」  そのままの体位で臀部を拭き、そのまま陰部に手を伸ばすと、流石に翠に制された。 「だ……駄目だ!」  涙目になって訴えてくるのが、可愛くて溜まらない。 「気にするな」 「ぼ……僕が気にするよ。清拭で勃つなんて……僕は駄目な人間だ。修行が足りないんだ! 出直してくる」  おいおい何所へ行くつもりだ? 「そんなことはない、俺の指に感じてくれて嬉しいぞ」  暴れる翠を押さえ込んで、半勃ちしたものを蒸しタオルで優しく包み、拭いてやった。 「や……やだぁ、やめてくれ」  嵩が更に増したので、確かな手応えを感じた。 「翠、恥ずかしがるなよ」  俺は翠の手首を掴んで、自分の股間に布越しにあてさせた。 「あ……っ」 「俺もこんなになっている。だから一緒だ」 「流も……? ぼ……僕だけじゃなくて?」 「そうだ、だから安心しろ。それに翠のは俺が清めてやる」 「えっ」  俺は翠を仰向けにしバスタオルを取って、そのまま股間に顔を伏せた。 「あぁ……っ」  翠の腰が跳ねるのを押さ込んで、屹立をパクッと口に含むと、翠が泣きそうな声で、こう言った。 「りゅう……溜まらないよ」 「いいか、気持ちいいか」 「う……ん……」  翠が目元を染めて、コクンと素直に頷いてくれた。  俺の翠は快楽に弱くなった。  っと、その時……ノック音がして看護師の声が響いた!  おっと……ヤバイ! またこのパターンかよ? 「回診です~ 入ってもいいですか」

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