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身も心も 30

「流っ、どうしよう」 「しっ!」  看護師の声に怯える翠の口元を手で覆い、耳元で宥めるように囁いてやった。 「落ち着け、大丈夫だ」 「な……どうして?」  それは看護師の声を制する声が聞こえたからさ。    救世主、丈の登場だ。  この特別個室を手配してくれた張本人だから、中の様子が手に取るように分かるのか、俺たちの状況を察してくれたらしい。  丈の静かで低い落ち着いた声に、安堵した。  お前は兄想いのいい弟だ。恩に切るよ。 「翠、もう大丈夫だ。もう行ってしまった」  だが羽目を外すことに慣れていない翠だから、先ほどまで盛り上がっていた熱は冷め、冷静になってしまっただろう。  それも仕方がない。  そうやって長い年月を生きて来た人だから。  何もかも求め過ぎてはならぬ。  今までの翠も、俺は大切なんだ。  俺の兄、月影寺の住職としての翠も尊重してやりたい。  どんな翠も、俺の翠だから。 「さてと……ここまでにするか」    覆い被さっていた身体を退かそうとすると、翠が意外な行動に出た。 「待て」  驚いたことに翠の手が伸びて、俺が離れるのを制した。 「翠……?」 「……み、導いて欲しい、最後まで」 「いいのか」 「流……苦しいんだ。このままでは」  翠が素直に本能のままに俺を求めてくれる。    こんな日がやってくるなんて、感無量だ。  丈がくれた束の間の時は、俺達の愛を深める物となっていく。  チュッと翠の屹立に口づけをし、舌で先端をちろちろと舐めて、じわりと溢れてくる蜜を啜ってやった。 「んっ……」 「流も辛いだろう」  俺の股間に手を彷徨わせて来るので、困ってしまった。  ずっと一方的な片想いだと思っていたから、相思相愛の状態で求め合うのに、慣れていない。 「よせ。翠の気持ちだけ貰っておく。俺のことは退院してからだ。楽しみにしている」  翠は俺の気持ちを素直に受け取り、身体の力を緩めてくれた。だから舌を巧みに使って愛撫を繰り返すと、可愛らしい屹立が嵩をどんどん増していくのが分かった。  まだ術後間もないのだ。無理はさせられない。 「んっ、ん」  翠はさっきから自分の手で口を塞ぎ、声を堪えている。  早く解放してやりたい。 「イケよ」 「んっーー」  焦らすことなく高めてやれば、翠は呆気なく弾けた。翠の生きている匂いに包まれて、安堵した。   「大丈夫か、無理させたな」 「りゅ……う……僕だけ、ごめん。でも、ありがとう」  尊い身体に触れさせて貰えたのは俺の方なのに、俺に礼を言うなんて。    蒸しタオルで優しく拭ってやり、新しいパジャマを着せてやると、つい先ほどまで、しどけない姿を見せていたとは思えない、楚々とした雰囲気に包まれていた。  これはこれで良い。  冷静になり辺りを見渡せば、広い特別個室はガラス張りで明るい光で満ちていた。  青空に浮かぶ雲。  木々の緑が目に眩しい。  祝福された部屋だ、ここは。

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