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身も心も 34

「翠!」 「流!」  入院中……僕たちは毎日ドラマチックな再会を繰り返していた。   「翠、今日の調子はどうだ?」 「いいよ。実はね、さっき丈が来てくれて、明日退院出来ることになったんだ」 「え? まじか」 「うん、順調だって」 そう告げると、流が破顔した。 「そうか、そうか良かったな! そろそろかと思っていた」 「本当か、嬉しいよ。流っ……」  感極まって流に抱きつこうと思ったら、流が一歩退いてしまった。  えっ、どうしたんだ? いつもなら僕が求めなくても触れてくる勢いなのに。 「あのさ、今日はお見舞いに……来ているんだ。おーい、もう入っていいぞ」 「え?」  扉が開くと、薙と洋くんが立っていた。 「父さん! 明日退院なんだって」 「えっ、なんで知って?」 「さっきから丸聞こえだよ」 「え……」  特別室だから油断して、声を控えていなかったのか。恥ずかしいよ。 「翠さん、退院なんですってね」 「洋くん!」  僕が手を伸ばすと、二人が躊躇いもなく触れてくれた。  近しい者の温もりはいい。心地いいよ。 「二人ともありがとう。早く月影寺に戻りたいよ」 「なーんだ、父さん、もう明日退院するなら、大人しく寺で待っていれば良かったよ」 「すみません。俺たち、お邪魔ですよね」  何故か洋くんと薙にまで恐縮されて、僕の方が恥ずかしくなってしまった。 「お邪魔なんかじゃないよ。とても嬉しいよ」 「でも父さん……本当に良かったよ。結構大変な手術だったと聞いて心配していたんだ」 「俺もです」 「うん、丈が本当に綺麗に縫合してくれて、治りもとても順調なんだよ」 「流石丈先生だな。良かった!」 「良かったです」  そこまで和やかに話していたのに、突然……薙の声が詰まった。 「うっ……」 「薙……どうした? 僕は元気だよ?」 「ごめん、あれ? なんでオレ泣いて」  薙は恥ずかしそうに、顔を背けた。 「薙は小さい時から……よく傷を心配してくれたね。覚えている?」 「ん……風呂に入る度に、すごく心配だったんだよ! だから……本当に良かった」  薙が泣いた。  この子がこんな風になくなんて、久しぶりだ。 「ごめん……父さん……ずっとお前に負担をかけていた」 「ちがう! 一番苦しかったのは父さんだ。いつも我慢ばかりして」  薙は泣きながら怒っていた。 「そんな風に怒ってくれるんだね。僕を心配して」  いつからだろう、薙が僕を避けるようになったのは。  いつからだろう、顔を合わせなくなってしまったのは。  いつから……  月影寺に引き取るまで、僕と薙の関係は冷え切っていたことを久しぶりに思い出した。  だから、こんなにも僕を想い、僕を心配し、僕の退院を喜んでくれるのが、震えるほど嬉しかった。 「薙……僕の息子、また一緒に暮らそう。これからも仲よくしておくれ」 「も、もうっ、父さんは人を泣かせる天才だ!」  洋くんも隣で涙ぐんでいた。 「翠さんと薙くんは、俺が知る中で、本当に……最高の親子です」  彼のひと言は、とても心が籠もっており、とても心に響いた。      

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