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クリスマス特別編 月影寺の救世主 1

  あっという間に、今日はクリスマスイブだ。  お寺にクリスマスなんて関係ないだろうと去年まで思っていたが、今年は違う。  翠は春に火傷痕を消す手術をしてから、グッと精力的になった。  おっと精力的なのは仕事のことだ。  あ、いや……夜の営みも色気が増して絶品だ。 「流、さっきから何をにやけている?」  翠が冷ややかな目で見るので、背筋を正した。鼻の下を伸ばすのは宗吾だけでいい。俺はもっと凜々しい恋人を目指しているのだから。  艶やかに咲く翠に相応しい男でありたい。 「何でもないさ」 「ふぅん……イルミネーションの準備は整ったのかい?」 「ばっちりだ。特注の饅頭の手配も出来ている」  翠は、最近寺に新しい風を吹かせている。  つまり新たな試みに挑戦するようになったのだ。  毎週金曜日の夜に開催するナイター写経会もその一つだ。  早朝座禅会は聞いたことがあるが、ナイター写経は初耳で心配したが、仕事帰りの人でも気軽に寄れるので、好評だ。 「なぁ翠、今日はクリスマス・イブなんだから、写経会は休んでも良かったんじゃないか」 「だが、皆さん来週も是非よろしくって仰るから」  馬鹿だなぁ、それは翠目当てだからだと突っ込みたくなったが、グッと我慢した。 「流……思う存分仕事をした後って、心置きなく……没頭できるんだ」   翠が意味深なことを口走る。  おい! それって期待していいってことか。  俺の翠は、俺を甘やかす天才だ。  いや人参をぶら下げられているのかもしれないと苦笑した。 「流……今宵はクリスマスイブだね。だから……離れで会おう」   ****  さっきから庭が騒がしいな。  ペンを置きコートを羽織って外に出ると、作務衣姿の流さんが中庭の木々に照明を取り付けていた。 「何をしているんですか」 「洋くん、悪いが、そっちを持ってくれるか」 「はい。あ……去年はイルミネーションを灯して下さってありがとうございました」 「あぁ、あれな。丈も気に入ったようで、アイツが翠に話したせいで、寺の庭全体をライトアップせよと、翠がご所望だ」 「え? どうしてですか」 「ほらアレだよ、クリスマスイブにわざわざ写経に訪れる人に贈りたいんだと」 「成程、翠さんらしいですね」 「ありがとうな。洋は仕事中だろ? あとは小森にやらせるよ」 「あ、はい」  少し名残惜しい気持ちになってしまった。  俺も……もっと手伝いたい。  そう告げようと思った時に、コートのポケットのスマホが鳴った。  相手は瑞樹くんだった。  こんな時間になんだろう? 「瑞樹くん、夏以来だね、どうしたの?」 「あ、あの……小森くんはいますか。彼って、今日は忙しいですか」 「うーん、どうだろう? 何かあった?」 「実は菅野が高熱で早退してしまって」 「えっ、あの菅野くんが?」 「そうなんです。アイツ一人暮らしだから心配で。僕は彼の仕事を引き受けたので様子を見に行ってやれなくて、その……」  とても控えめに言うので最初はピンとこなかったが、ハッとした。  管野くんと小森くんはこの夏からお付き合いしている。つまり…… 「瑞樹くん、大丈夫だよ。小森くんに今からお見舞いに行かせるよ、俺も心配だし」 「本当? そうしてくれると安心できるよ」 「了解」  電話を切ると、流さんがニヤニヤと笑っていた。 「なるほど、今日は洋が小森くんの代わりに働いてくれるんだな」 「あ……勝手に決めちゃってすみません」 「いいって。恋人が病気なら看病するのが当然さ。但し風邪をもらわないようにしないとな。こもりー! どこだぁ」  流さんは頭の回転が速いので、すぐに小森くんに旅支度をさせた。 「いいか、マスクは外すな。それから栄養ゼリーとドリンク、あとお粥のレシピと……カイロと、これは小森に差し入れの饅頭だ」 「わぁクリスマス限定のお饅頭ですね。 キラキラしていて綺麗ですねぇ。ありがとうございます。では、小森風太、菅野くんのお見舞いに行って参ります」  小森くんは大きな風呂敷を抱えて、山門を駆け下りていった。 「おーい、転ぶなよ」 「はーい! お饅頭が入っているので、気をつけます~」  そこ?   菅野くんとは暫く会えていなかったようで、小森くんは顔を赤くして飛び出していった。  その様子を見守って、付き合いたてってピュアでいいなと少し羨ましくもなり、同時に今宵俺は……丈とどんな濃厚なクリスマスイブを過ごすのか楽しみにもなった。  

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