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クリスマス特別編 月影寺の救世主 5

昨日の更新、後半転載し忘れていましたので、修正しています。 申し訳ありません。 **** 「洋くん、お疲れ様。君のお陰で助かったよ」 「少しは役に立てたのなら、嬉しいです」 「あぁ、君は良くやってくれた」  翠さんが心から労ってくれるのが、嬉しかった。  いつもは足手纏いで不器用な俺だが、習字だけは自信がある。母からの手解きが役に立つ日が来るなんて感慨深い。お客様に墨汁や筆の扱いを教えてあげたり、手本を書いたりと忙しい時間だったな。でも達成感があった。 「さてと、そろそろ丈が戻ってくる時間だね。洋くんはそろそろ離れにお戻り」 「ありがとうございます」 「洋、ほら、これは俺からのご褒美だ」  流さんから大きなバスケットを手渡された。中には温かなシチューと焼きたてのパンが入っていた。 「サラダくらい作れそうか」 「はい」 「いや、やっぱり駄目だ。指でも切ったら大変だから、大人しく待っていろ」 「……ううっ、信用されていませんね」 「丈のために我慢しろ」  確かに筆は持てても包丁はからきし駄目だ。ここは大人しく離れで丈の帰りを待とう。 「今宵は、二人でゆっくり過ごせ」 「はい! 翠……兄さんと、流……兄さんも……」 「いいな、その呼び方!」  離れに戻ると、すぐに丈が帰ってきた。   「洋、ただいま」 「お帰り、丈。息を切らしているな。駅から走ったのか」 「ちょっとやることがあってな」 「ん?」 「いいから」  俺たちは玄関先でキスを交わす。  これはいつもの日課。 「まずは風呂に入ろう」 「うん、一緒に入るか」 「もちろん」  湯船の中で丈の逞しい胸板にもたれながら、今日1日にあったことを話した。 「丈……俺ね……母さんに習字を習っておいてよかったよ」 「洋の書く文字は、この美しい顔と同じで美麗だ」 「んっ……あっ」  丈が俺の顎を掬い深い接吻を受ける。  その口づけが首筋に埋められると、期待で下半身が震えた。 「ん……まだ駄目だ。俺……働いたから腹が空いている」 「そうだな。今はここまでで我慢するよ」  聖夜に乾杯――  ふたりでソファに座り、シャンパングラスを傾けた。ビーフシチューは流さんの十八番で絶品で、手作りのパンは香ばしく美味しかった。 「美味しいな」 「あぁ、兄さんのお陰でゆっくり出来るよ」 「俺たちは周りにサポートしてもらっているんだな」 「……洋はもうひとりではない。それは私にも言えることだ」 「あぁ、そう思っている」  10代のクリスマスは、どこまでも寂しかった。  だが丈と出会ってからは毎年、丈が思い出を置いてくれる。  今年はどんな思い出が残るだろう? 「洋、おいで……そろそろデザートにしよう」 「そうだ、昼に出した和菓子があるんだ。クリスマスのだよ」  写経会で出した上生菓子をもらったので出そうと思ったら、丈に制された。 「それは後にしよう」 「丈? デザートはいらないのか」 「もう待ちきれないのだ」 「?」 「こっちだ、窓辺に来い」  寝室のカーテンを、丈が全開にする。 「ん? 真っ暗だよ」 「今からだ」  サプライズが……星空から降ってくる。  丈がスマホで何かを操作すると、突然パッと灯りが樹木に灯った! 「えっ……」 突然浮き上がったのは、『I love you』のプレートとイルミネーション。 「丈……これ……いつの間に?」 「どうだ? |YOU《ヨウ》?」 「参ったな。丈……カッコよすぎるよ。全然気付かなかった」 「その顔だ。その笑顔が見たくて頑張ったのだ。私はもっと淡々としていると思ったが、どうやら流兄さんに似たようだ」 「丈……愛してる―― 俺、こんなに華やいだクリスマスは初めてだよ」  今年のクリスマスは華やかだ。  過去のお前は今、どうしている?  今、笑っているか。  今、幸せか。  俺が笑えば、お前も笑う。  俺が幸せなら、お前達も幸せだと聞いた。  ならば今……きっと至福の時を過ごしているはずだ。  そしてyouは夕《ユー》……母さんだ。  母さん……俺、こんなに幸せなクリスマスを迎えられた。  どうか安心してくれ。  もう大丈夫、もう泣かないでくれ。  夜空に母の涙のような流れ星が、スッと光ったような気がした。

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