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クリスマス特別編 月影寺の救世主 6

「こもりん?」 「ううう……寒いです……ブルブルします」 「うわっ、かなり熱が上がっているな」 「うわーん、これではせっかくのお饅頭が食べられませんよ」 「馬鹿! それどころじゃないだろう!」 「でも……あれは上生菓子だったのにぃ……硬くなって干からびてしまいますよ……くすん」 「おい!」  俺にくっついて寝汗をかいているこもりん。  汗ばんだ額をタオルで拭いてやり、眉をひそめた。  かなり高熱で辛そうだ。  一方……俺の方は熱のピークは越えたようで、身体はかなり楽になっていた。こもりんが持って来てくれた栄養ドリンクが効いたようだな。市販品ではなく手作りの生姜シロップだったので、身体の芯からポカポカしてきた。きっとお寺の秘伝のドリンクで、流さんの手作りに違いない。  問題は風太だ。 栄養ドリンク……風太に飲ませればよかったよ。ごめんな。 「そうだ、家に連絡しないと。このままだと無断外泊になってしまうだろ」 「うううう……ふらふらします」  風太はよろよろとスマホを取り出して、電話をかけた。 「もしもし……あ、お母さん。僕、おつかいで菅野くんの家にきて……熱だしちゃって……はい、休ませてもらいますね。大丈夫ですよ。菅野くんはいい人だから……看病してもらってます」  おお! 『菅野くん』と堂々と名前を出してくれるのか!  なんだか一昔前の箱入り息子のようで、可愛いな。  ということは……俺も挨拶した方がいいのでは?  恋人同士とは流石に話せていないだろうが、友人と話してくれているようで、嬉しい。同時に背筋を正しくなった。 「風太、電話貸して」 「あ……はい」  緊張するが、ここはきちんと挨拶しておきたい。   「あの、電話、かわりました。菅野良介です」 「まぁ、あなたが菅野くんなのね。あの……ごめんなさいね。あの子少し風邪気味だったみたいで」 「すみません。俺のせいです」 「そんなんことないわ。あの子ね……いつも菅野くんの話をしているのよ。友達なんていない子だったので、私達嬉しくて。風太と仲良くしてくださってありがとう」 「そんな……こちらこそ。あの、熱が高いので今日は泊まらせます」 「もちろんよ。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」  電話を切って、ホッとした。  親公認でお泊まりだと喜びたいところだが、真っ赤な顔でふぅふぅ言っている風太を見ると、気の毒になった。 「風太。おいで」 「菅野くぅん……」 「一緒に眠ろう。眠ったらきっと良くなるよ」  水分を取らし、解熱剤を飲ませて、俺たちはまたくっつき合った。  ラジオをつけるとクリスマスソングが流れてきて、あぁそうかと……ようやく今日がクリスマスだと思い出す始末だ。  でもさ……こんなクリスマスがあってもいいのかもな。  大好きな子とかぜっぴき同士でダウン。  俺たちの人生は長い。  こんな日もあるさ!  明日になればきっと良くなる。  そう信じられるのは明るい恋だから?  未来があるっていいな。 **** 「流、離れに行くんじゃなかったのか」 「寄り道さ」 「こっちは丈たちの離れだよ? こんな時間に……お邪魔だよ」 実は丈に一つ頼まれていた。 『I Love you』の七宝焼きのプレートとイルミネーション電球を準備してやったんだ。  あいつ、病院からすっ飛んで帰ってきて、息を切らせながらベッドルームから見える樹木に装飾したのだろうな。  その出来映えを見たかったのだ。 「流、真っ暗だよ?」 「きっと……もうすぐだ」 「?」  翠には何も話していないので、首を傾げていた。  やがて突然灯りが灯った。 「流、見て! あそこだけ、光っている!」 「ふっ、丈の演出だよ」 「え……そうなのか」 「あいつらに愛が灯ったんだ」 「ふふ」  翠がくすぐったそうに笑う。 「何故笑う?」  「僕の弟たちはロマンチックだなって」 「まぁな。それから俺の方がロマンチックだ」 「どうかな? 丈はしつこい男だよ。流を抜かそうと虎視眈々と」 「いや、弟には負けられない」 「あは、嬉しいね。僕の流。お前のやる気は、僕の元気の源だよ」    翠がたおやかに笑う。  その笑顔を絶やさないように守るのが俺の役目だ。  チカチカと点滅するイルミネーションは、夜空を駆ける流星のようにも見えた。 「星の瞬きみたいに綺麗だね」 「翠……」 「何?」  だから俺は翠の手をとって、手の甲に誓いのキスを落とした。 「翠……愛してる」 「流……僕も愛してる」  さぁ行こう。  俺たちも愛を灯しに――  

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