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花を咲かせる風 27

「父さん、やっぱり金閣寺? それとも銀閣寺? どっちに行きたい?」 「そうだね。じゃあ銀閣寺かな」 「OK! 待ってね、今コースを調べるから」 「なーぎ、それは父さんの役目だよ」 「でも、父さん、スマホの操作下手すぎ!」  ストレートに言われて、その通りなので照れ笑いをしてしまった。 「参ったな。バレていたの?」 「現役高校生には勝てないよ」 「もう高校生なの?」 「えっとまだ中学生だけど、4月1日からは高校生だよ」 「ふふっ、やっぱり、まだ中学生の息子だ」 「変なことに拘るんだね」  いつまでも小さな子供ではないと分かっていても、幼さを追い求めてしまうのは、親の性《さが》なのかな。中学生の薙と旅行するのは、これが最初で最後となるだろう。だからこそ一瞬一瞬が愛おしい。 「薙……高校生になっても、父さんと旅行してくれる?」 「もちろん! あ……でも父さんは、まずはその寝ぐせ、直した方がいいよ」 「えっ?」  鏡を見るとぴょんぴょんと四方八方に跳ねていたので、これは住職としてあるまじき姿だなと苦笑してしまった。  あーあ、いつも流が直してくれるからって……  僕はいつだって……流に頼りすぎだ。  ベッドに転がってあれこれ検索していた薙が、自信満々の笑顔でスマホの画面を見せてくれた。 「父さん、このコースにしよう!」   『銀閣寺・哲学の道 古《いにしえ》を偲ぶ散策コース』 「いいね。父さん、薙と『哲学の道』を歩きたかったんだ」 「オレも!」   ****   「丈……これって」 「洋、比べてみよう」 「あぁ」  慌てて自分の鞄から、父の遺品のボタンを取り出した。 「やっぱり……同じだ! 寸分も違わない!」  がま口に大切にしまわれていたのも俺が母の部屋で見つけたのも……月桂樹とペンのレリーフに『高』の文字が彫られたボタンだった。 「まさか……洋のお父さんと縁があるのか。洋はさっき何を見た?」 「……学ラン姿の青年が夕凪を訊ねてきていた」 「名前は?」 「『まこくん』と夕凪が呼んでいたが、それ以上のことは分からない」  そこまで話すと、丈が俺の手をグイッと引っ張った。 「洋! 京都市内に戻ろう!」 「えっ、でも宇治に来たばかりなのに」 「ここでの用事は済んだ。その証拠にもう夕凪の家はない。同時に夕凪が伝えたかったものは受けとめただろう。だからこそ、どうしてもその学校を探しあてよう。きっと何かが分かるはずだ」 「あぁ」  今回の京都旅行の目的の一つは、俺の父のルーツを探すことだった。  そのことに、丈がこんなにも真剣になってくれるなんて、嬉しいよ。  俺たちが歩く度に、チリンチリンと鈴の音が聞こえた。  この音色は……  過去から現在へ  現在から過去へ  思いを繋ぐ音なのだ。 鈴はその清浄な音色によって、邪気を祓うといわれている。  だからこそ、真っ直ぐに教えて欲しい。  何と何が繋がっていくのか、まだ不確かなんだ。   夕凪が後生大事にしたであろう鈴と学ランのボタンは、今、俺の手中にある。  このアイテムが、鍵となる!  宇治駅で電車を待っていると、翠さんから電話がかかってきた。 「洋くん! 大変だ!」 「翠さん? 一体、どうしたんですか」

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