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新春特別番外編 雪の毛布 1

   春先の連載再開前に、少しウォーミングアップを。  今日から、小話風に気ままに新春特別番外編をあげていきます。  少しコミカルな流と翠メインですので、福笑いをどうぞ。 ****  夜中にドカンと雪が降ったようで、朝起きるとかなりの積雪で驚いた。  一面の雪景色の日本庭園に、流石の俺も唖然とする。  鎌倉でここまで雪が積もることは、滅多にない。 「うぉぉ! 正月早々すごいことになったぞ! これは参拝客が押し寄せる前に雪かきをせねば!」  俄然やる気が出た!  俺は使命に燃える性格なのさ。  作務衣姿のまま勢いよく母屋を飛び出そうとすると、翠に呼び止められた。 「流、待って」 「ん? なんだ?」 「外はすごい積雪だよ。そんなに薄着で出たら風邪をひいてしまう」 「なぁに、大丈夫さ」  風邪なんて引いた試しがないので心配無用だと豪語すると、翠が少し拗ねた顔をした。  ん? 機嫌を損ねたのか。  必死に翠の気持ちを探ると、思い当たる節があった。 「あっ! あれか……マフラーか!」 「……僕がなんのために流に贈ったと?」 「する、する、する! 取ってくる!」 「くすっ、流もワンちゃんみたいだね。さぁ取っておいで。僕が巻いてあげるから」  翠はそれがしたかったんだなと思うと、ニヤけてしまう。  俺は翠に今年もたっぷり甘やかされるようだ。  慌てて部屋にUターンし、クリスマスに翠からもらった若竹色のマフラーをひっさげて戻った。  ところが翠は玄関先で誰かと楽しそうにしゃべっていた。しかもマフラーを巻いてあげようと……  何者だ! 曲者か!  慌てて覗き込むと…… 「ふふ、可愛いねぇ、良く似合うよ」 「住職さま~ 暖かいです。あの、これって、これって」  げ! 小森か。  お目々キラキラ小森だ。  まったく空気を読めよ~ 「そうだよ、君の好きな小豆色だよ」 「やっぱり! そうなんですね。ジュルル……」  今さっき磨き上げたばかりの床に、小森の涎がぽとりと滴り落ちそうになったので、慌ててキャッチした。  新年早々……汚いなぁ。  おっと、こんなことしている場合じゃない! 「翠、次は俺の番だ! 早く巻いてくれ!」 「小森くん、先に雪かきをお願い出来るかな?」 「はぁい。小豆マフラーがあるので、頑張ります」 「ご褒美はお饅頭だよ」 「わぁい!」  小森が消えると、翠は辺りをキョロキョロと見渡してから、俺の首にマフラーを巻いてくれた。 「こんなことするの、久しぶりだね」 「あぁ」  背伸びして微笑む翠の笑顔は、最高だ。 「翠、初めてのこともしようぜ」 「え?」    そのまま翠を玄関の内側に押し込み、腰に手を回して顎に手をかけた。 「新年の挨拶だ。明けましておめでとう、翠」 「流……今年初めての口づけだね」 「あぁ……今年も沢山の初めてを重ねていこう」  温もりを分かち合う、新年の朝。  今年も翠を愛して、愛して、愛し抜くことを誓う。    

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