1460 / 1585
新春特別番外編 雪の毛布 1
春先の連載再開前に、少しウォーミングアップを。
今日から、小話風に気ままに新春特別番外編をあげていきます。
少しコミカルな流と翠メインですので、福笑いをどうぞ。
****
夜中にドカンと雪が降ったようで、朝起きるとかなりの積雪で驚いた。
一面の雪景色の日本庭園に、流石の俺も唖然とする。
鎌倉でここまで雪が積もることは、滅多にない。
「うぉぉ! 正月早々すごいことになったぞ! これは参拝客が押し寄せる前に雪かきをせねば!」
俄然やる気が出た!
俺は使命に燃える性格なのさ。
作務衣姿のまま勢いよく母屋を飛び出そうとすると、翠に呼び止められた。
「流、待って」
「ん? なんだ?」
「外はすごい積雪だよ。そんなに薄着で出たら風邪をひいてしまう」
「なぁに、大丈夫さ」
風邪なんて引いた試しがないので心配無用だと豪語すると、翠が少し拗ねた顔をした。
ん? 機嫌を損ねたのか。
必死に翠の気持ちを探ると、思い当たる節があった。
「あっ! あれか……マフラーか!」
「……僕がなんのために流に贈ったと?」
「する、する、する! 取ってくる!」
「くすっ、流もワンちゃんみたいだね。さぁ取っておいで。僕が巻いてあげるから」
翠はそれがしたかったんだなと思うと、ニヤけてしまう。
俺は翠に今年もたっぷり甘やかされるようだ。
慌てて部屋にUターンし、クリスマスに翠からもらった若竹色のマフラーをひっさげて戻った。
ところが翠は玄関先で誰かと楽しそうにしゃべっていた。しかもマフラーを巻いてあげようと……
何者だ! 曲者か!
慌てて覗き込むと……
「ふふ、可愛いねぇ、良く似合うよ」
「住職さま~ 暖かいです。あの、これって、これって」
げ! 小森か。
お目々キラキラ小森だ。
まったく空気を読めよ~
「そうだよ、君の好きな小豆色だよ」
「やっぱり! そうなんですね。ジュルル……」
今さっき磨き上げたばかりの床に、小森の涎がぽとりと滴り落ちそうになったので、慌ててキャッチした。
新年早々……汚いなぁ。
おっと、こんなことしている場合じゃない!
「翠、次は俺の番だ! 早く巻いてくれ!」
「小森くん、先に雪かきをお願い出来るかな?」
「はぁい。小豆マフラーがあるので、頑張ります」
「ご褒美はお饅頭だよ」
「わぁい!」
小森が消えると、翠は辺りをキョロキョロと見渡してから、俺の首にマフラーを巻いてくれた。
「こんなことするの、久しぶりだね」
「あぁ」
背伸びして微笑む翠の笑顔は、最高だ。
「翠、初めてのこともしようぜ」
「え?」
そのまま翠を玄関の内側に押し込み、腰に手を回して顎に手をかけた。
「新年の挨拶だ。明けましておめでとう、翠」
「流……今年初めての口づけだね」
「あぁ……今年も沢山の初めてを重ねていこう」
温もりを分かち合う、新年の朝。
今年も翠を愛して、愛して、愛し抜くことを誓う。
ともだちにシェアしよう!