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翠雨の後 17

 月影寺のご住職の言葉は、糧となる。 『俺はいい子で、達哉さん……お父さんに可愛がってもらっている』  翠さんの言葉を、自分の言葉で復唱してみた。  どこまでも慈愛に満ちていれ、しみじみと嬉しくなった。    翠さん、ありがとうございます。  Uターンして建海寺に戻ると、達哉さんが血相を変えてすっ飛んで来た。 「どうした? 遊びに行くんじゃなかったのか、何かあったか」  まるで小さな子供のように心配されて、照れ臭い。  でも、温かい。 「忘れものを取りに来ただけだよ」 「ん?」 「寄せ木細工の栞、あと、それから……着替えていくよ」 「何に?」 「……制服を着て月影寺に行ってもいいかな、お父さん」  お父さんには、包み隠さず話したかった。  俺のこと、もっともっと分かって欲しくて。 「あぁ、制服姿を見せて来い。お父さんは明日ゆっくり見られるから」 「えっ、入学式に一緒に行ってくれるの? 」 「おいおい当たり前だろう。大事な一人息子の入学式なんだ」  大事な一人息子。  そんなにまで、大切に思ってくれているなんて 「拓人、さぁ行って来い。会いたい人に会って来いよ」 「うん!」  お父さんの言葉が矢のように放たれる。  俺、お父さんが好きだ。  俺を生んでくれたお母さんはもういないし、実のお父さんもとっくにいないが、こんなにまで俺を慈しんでくれる人と出逢えるなんて――  今生で、俺が父と呼ぶのは達哉さんだけだ。 「お父さん、本当にありがとう」 「ははっ、照れるぜ。そうだ、また父子旅行に行こう! 息子っていいんもんだ。いつまでも一緒に温泉にも入れるしな。今度は滝行もしようぜ」 「うん、また行きたい。すごく楽しかったから」  もう一歩、もう一歩、俺からも歩み寄って甘えてみよう。  俺がそうすると、お父さんとの関係がもっと上手く行く気がする。 **** 「拓人の学ラン姿、男らしくてすげー似合っている」 「そういう薙だって、ネクタイなんて締めてオトナっぽいぞ」 「サンキュ! なぁ、俺の部屋でゲームしようぜ」 「いいな!」  拓人とはあんなことがあったが、それはもう過去のことで、オレは今の拓人が好きだ。  オレは昔から嫌な事はさっさと忘れてしまいたいタイプだ。 「拓人、オレたち、明日から高校生だ。気持ちを切り替えて行こうぜ」 「薙、俺もそう思ってた。本当は薙と同じ高校に行きたくて未練があるが、もう吹っ切っていくしかないよな。立ち止まってあれこれ悩んでも解決しないなら、動いてみようかな」 「ポジティブな行動ってヤツだな」 「そうだ。薙はどう思う?」  ストイックで真面目なとこ。  少し不器用なところ。  拓人って本当にいい奴だ。 「聞くまでもないさ! オレも同感!」  明るい笑顔を向ければ、拓人も笑ってくれた。  そのままオレの部屋でゲームをしたり、映画を観たりして、高校入学前日を謳歌した。 「日が暮れてきたな。そろそろ帰るよ。お父さんが待ってる」 「そうだな。オレさ、拓人の高校生活も知りたい。だから定期的に会おうな」 「あぁ! よろしくな」  ハイタッチ!  そしてバイバイ。  また明日とは言えないが、いつでも会えるが合言葉!  

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