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翠雨の後 18
拓人を山門で見送った。
見えなくなるまで、見送った。
拓人は途中で一度だけ振り返って、そのまま一気に国道を走り出した。
「オレだって拓人と一緒に高校生活を送りたかったよ。明日からお前がいないのが不思議だ。でもオレたちの縁、途切れさすつもりはないからな!」
寂寥とした気持ちを薙ぎ払い、母屋に向かって歩き出した。
背後の竹林がガサッと音を立てたので振り返ると、洋さんが血相を変えて山門へ走って行く姿が見えた。
あんに急いで、何かあったのかな?
いつも物静かな洋さんが珍しい。
竹藪を駆け抜ける洋さんは、いつもより雄々しくカッコいいと思った。
思わず目を擦ってしまった。
「ん? ゲームのし過ぎかな? 洋さんが黒い甲冑を身につけた戦国武将に見えるなんて」
ここにやってきて、まだ2年足らずだ。
どうやら、まだまだ知らない謎がありそうだ。
特に洋さんに関しては――
次々と姿を変える月のような人だから。
だが無理に暴いたりはしない。
人には触れてはいけない部分がある。
オレにも父さんにも、きっと洋さんや丈さんにも……
この月影寺では、誰もオレたちを脅かさない。
本当は、この寺に来るまで、父さんのこと良く思ってなかった。義務教育中は厄介になるけど、高校になったら寺を出て自立したいと思っていたんだ。ここを出て行く覚悟だった。鎌倉の山奥なんかじゃなくもっと都会で暮らしたいと願っていた。
それはもう全部遠い過去になった。
オレ、この寺が好きだ。
オレ、父さんが好きだ。
部屋でゲームの続きをしていると、腹がグゥと鳴った。
「そろそろ夕食かな?」
ふらりと庫裡に入ると、ジーンズとトレーナーを身につけ、黒いエプロンをした人の背中が見えた。
「え?」
「あ、薙、今呼びに行こうかと思っていたんだ」
「と、父さん!」
「ん? そんなに素っ頓狂な声を出してどうしたの?」
「そ、その服装は一体?」
「あぁ、驚いた? 流が揃えてくれたんだけど若作りだよね、くくっ」
父さんが、珍しく声に出して明るく笑った。
なんかいいかも!
「違和感あるよね。やっぱり和装の方がいい? 今から着替えてこようか」
「駄目だ!」
「え?」
「そのままがいい!」
「薙?」
「父さんってキャッチボール出来る? サッカーは? バスケもいいな! 今度一緒にやって欲しい」
オレ、何を言って?
幼い子供みたいに駄々を捏ねて――
すると父さんがふわりと抱きしめてくれた。
トレーナーはふわふわな生地で心地良かった。
「なーぎ、何でもしてみよう! 今まで出来なかったこと、父さんもしたいから」
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