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天つ風 18
校庭のど真ん中から、父さんに向けて真っ直ぐエールを送った。
隣にいる流さんにも、同様にエールを送った。
腹の底から声を出した。
届け! オレの思い。
これは、ずっと送りたかったエールだ。
父さんは覚えているか。
オレ……小さな頃、こんな風に、父さんにエールを送ったことがあるんだよ。
あれは幼稚園のお遊戯会だった。
「次は松組さんの男の子たちの出番です。アニメ『月光少年剣士』より『エール』という曲に合せて、可愛い踊りを披露します」
髪にキラキラ輝く三日月の飾りをつけて、白い衣装にシルバーの剣を持って舞台に飛び出した。
ところが思ったより舞台が高く、一気に緊張してしまった。
ライトが眩しくて、怖くなった。
そんな時、オレはいつも父さんを探した。
「なぎくん、どうしたの?」
「あ、うん、とうさん、どこかな? あっ、よかった! みつけたよ」
「きてくれて、よかったね。ぼくのパパもあそこいるよ。がんばろうね」
「うん!」
父さんは力強くはなかったが、とても優しく穏やかな人だった。
オレの家の場合、母さんが怖かったから、父さんが静かに見つめてくれると、心が落ち着いたんだ。
父さんがニコッと微笑んでくれると、冷え切った身体が一気にポカポカした。
そんな父さんがずっと元気がないのが気になって、幼いオレは父さんに向けて一生懸命踊った。
とうさん、元気出して――
とうさん、笑って――
とうさん、どこにもいかないで。
子供心に迫り来る父さんとの別れを予感していたのか、オレは踊りながらいつの間にか泣いていた。
父さん、今のオレを見てくれ!
オレ、父さんにエールを送っている。
父さんと流さんの歩む道は、この世界では茨の道だ。
寺のご住職が実の弟と愛し合っている。
そんなことが万が一世間にバレたら檀家さんたちは、どういう反応をするだろうか。
皆が皆、いい人じゃないことくらい、知っている。
理解の範疇を超えてくる人だっているし、どうしてもわかり合えない人だっている。
だからこそ、禁忌を犯していると噂が立つようなことはあってはならない。
そんな噂が立たないように、父さんは必死に月影寺に結界を張り続けているのも知っている。
だからオレは、父さんと流さんの未来が平穏無事であるようにエールを送る。
そして好奇心や蔑み……興味本位で近づいてくる邪心は、オレが薙ぎ倒す。
父さんを襲ったアイツには、父さんがこの制服を着ていた高校時代に因縁をつけられたと聞いている。
父さんを過去のしがらみから断ち切るために、オレがいる。
今日は父さんと流さんの門出だ。
オレが父さんの学ランを借りた意味はここにある!
フレーフレー 父さん、流さん。
二人には、オレがいるから大丈夫だ!
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