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天つ風 23

 障害物競走では、全力を出し切れた。    息を切らしながら額の汗を拭い空を見上げると、空はどこまでも青く澄んでいた。    あれ?  空って、こんなに青かったか。    空って、こんなに高かったか。  中学までは何事も怠かった。  一生懸命やるなんてバカバカしい、何でも適当で充分だと思っていた。  そんな冷めた考えを持つようになったのはいつからか。  成長するにつれて……オレを置いていった父さんを恨み、オレに自分の考えを押しつける母に疲れた。  今考えると……怒りや悔しさを相手にぶつけてばかりで、オレ自身は何一つ成長出来ていなかった。されたことをやり返すのではなく、自分自身を成長させていけば、こんなにも見える景色が違うことを知らなかった。  負の感情は、生きていれば誰でも抱くものだろう。  オレはまだ高校1年生。  この先も人生山あり谷ありさ。でもこれからは、オレは自分の中に沸き起こる負の感情は薙ぎ払い、自分を突き動かすパワーにしたい。 「おーい、薙も1位だったのか」 「おぅ、草薙《くさなぎ》もか」 「『薙・薙』同士、やったな!」 「あぁ!」  ハイタッチで微笑みあった。  草薙は高校で初めて出会った、同じクラスの友人だ。体格の良い気さくな奴で『薙』という漢字が同じなのが縁で、すぐに仲良くなった。 「次は一緒に三人四脚だな」 「頑張ろうぜ」   次は、オレと草薙ともう一人のクラスメイトで三人四脚に出場する。  午前中の出番はそこまでで、午後は応援合戦に騎馬戦、リレーと大忙しだ。 「次は高一の三人四脚です」  アナウンスと共に列に並んだ。  父さんたちはどこかな?  様子をそっとのぞき見ると、人垣から離れた場所に立っていた。  涼しげな父さんと、父さんをそっと守る流さんにほっとする。  父さんは流さんに任せておけば大丈夫だ。  もう父さんは誰にも脅かされない。 「おーい、薙、予行通りお前が真ん中でいいか」 「もちろん。そろそろ結わこうぜ」  三人で横並びになって隣り合った足を紐で結ぶ。オレは真ん中で両足が結ばれているため、両端より難易度が上だ。  何よりこの競技は、両脇の二人と息を合わせて走る事が大切なんだ。 「よし、もうすぐ順番だ。足踏みしておこうぜ」 「おぅ」 「イチ、ニー、イチ、ニーで、右足からな。よし行くぞー!」 「おー!」  足並みを揃えて、走り出す。  昔のオレだったら、絶対に選ばなかった競技だ。  今は父さんと流さんと足並みを揃えて生きたいと願っているから、挑戦してみたかったんだ。  一人で突っ走るのもいいが、こうやって肩を組んで協力しあうのも悪くない! **** 『三人四』』の後は、昼休みだ。 「流、お弁当、どこで食べようか。体育館も開放しているらしいよ」 「いや、俺たちは屋上にしよう」 「屋上?」 「俺の特等席に案内してもいいか」 「うん、喜んで」  僕は流に誘われ、屋上へ向かった。  午前中に見た競技の興奮が冷めなくて、つい流にあれこれ話しかけてしまう。 「流、三人四脚も良かったね。薙がみんなに歩調を合わせていたね」 「あぁ、真ん中は難しいのに、よく相手を見ていたな」 「……薙、やっぱり変わったね」 「変わったんじゃなくて、薙は自分が好きになったのさ」  流の一言に、僕は深く頷いた。 「そうだね、僕も今の僕が好きだ」 「あぁ、今の翠は最高だ。俺を好きなのを隠さないでいてくれる」 「もう心に嘘はつきたくないんだ」  あの日も、あの日も、ひた隠しにしていた弟への募る想い。  このままあの世まで持って行く想いだと耐えていたのは、いつのことか。  屋上は向かう階段を振り返るが誰もいなかった。  こんな暑い中、わざわざ屋上を選ぶ人は僕達くらいらしい。 「鍵、本当に開いてるな」  流が屋上へ出る扉を開けると、目映い光が飛び込んできた。  目の錯覚か。  学生服に身を包んだ流の背中が見えた。  あぁ……どうしたのだろう?  悶々として、苦しそうだ。  あの頃伝えられなかった言葉は、今なら言える。 「流、待ってくれ」 「おぅ、どうした?」 「愛してるよ」  流を追い抜きざまに囁くと、流が頬を染める。 「不意打ちだ」 「駄目か」 「はぁ~ 幸せ過ぎだ」        

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