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天つ風 28

 洋くんが見上げた空は、どこまでも青く澄んでいた。  君が遠い過去から必死に願ってきたことは、この世でようやく叶った。  そう思うと、この末の弟を優しく抱き締めてあげたくなった。  僕と洋くんは、どことなく顔立ちが似ている。  だからなのか……流と丈とはまた別の愛おしさを感じている。  大切にしてあげたい可愛い弟なんだよ、君は――  だからもっと、もっと、自分に自信を持って欲しい。 「洋くん、今日は来てくれてありがとう」 「兄さん……あの時はせっかく誘ってもらったのに素直になれなくて、すみません」  兄さんか。  いいね、僕をそう呼んでくれることも、最近増えてきた。  それがまた嬉しい。 「いいんだよ。こうやって今、並んで立っているのだから。薙は僕たちにとって大切な存在だから一緒に観たかった」 「僕たち?」 「君と薙も深い縁で繋がっている。そもそも今の君は、大家族に身を置いているのだよ」 「あ、はい! 皆さん……俺の家族です」  洋くんは美しい顔をほんのり赤く染めて、僕を見つめた。  相変わらず、誰もが振り向く程の類い希な美貌の持ち主だ。  だがそのせいで苦しんだ辛い過去がある。よからぬ輩の身勝手な欲望を引き寄せてしまい、僕以上に苦しんだ人生だったが、これからは顔を上げて生きて欲しい。  僕もそうするから。  年齢を重ねるにつれ深い趣が加味された美貌を放つ洋くんが、僕は愛おしい。 「君は月光のような人だから、月影寺に相応しいよ」 「相応しいでしょうか」 「そうだよ、最後はここに辿り着く運命だったんだ。さぁ一緒に観戦しよう。あ、その前に、喉が渇かない? 暑くなってきたから、こまめに水分を取らないと駄目だよ」  つい長男気質が出て、あれこれと末っ子の世話を焼きたくなった。  すると流に手招きされた。 「おーい、お二人さん、こっちこっち」 「流、どこに行っていた?」 「いいから、こっちで休憩しようぜ」  流の後をついていくと何故か体育館の裏庭に『ござ』が敷かれていた。座布団まで並べて……いつの間に持って来たんだ? 「二人の美貌が眩しすぎるから、父兄席を離れ、ここで寛ごうぜ。これは全部用務員室から借りてきた。まだ知り合いがいたから助かったよ」 「そ、そうなのか」  なるほど、これは確かに『伝説』にもなるはずだ。  流は高校時代、きっと校内を我が物顔で渡り歩いたに違いない。 「ささ、どうぞ」  正座すると、さっと冷茶を差し出された。  切り子のグラスの中で、カランコロンと氷が音を奏で、涼しげだ。 「風流だね。それにしても流石だね、ちょうど喉が渇いて……」 「そうだと思ったぜ! 翠から滴る水分量は、俺がしっかり把握しているからな」 「りゅ、流……それ、なんだか意味深だよ」  もう、何を言い出すんだか。  流は意気揚々と洋くんの肩を抱く。 「さぁ洋もしっかり飲んでおけ。洋も毎晩汗をかかされて大変だな」 「え!」  洋くんはポーカーフェイスを装っていたが、耳朶を染めた。  流は相変わらず、やんちゃだな。 「でもやっぱり俺が一番水分不足だろう。いつもカピカピのカピカピだ」 「りゅ、流、こらっ、はしたないよ」    すると洋くんが、ぼそっと呟く。 「一番水分不足なのは……丈だと思いますよ。アイツはガビガビに、くっ、ははっ!」 「ガビガビだと!?」  流が対抗心を剥き出しにする。 「くそぅ、負けてられないな」 「ははっ、俺、口が滑りました。くくっ……」  洋くんが快活に笑う。  楽しそうに肩を揺らす。  洋くんの身体が揺れると、グラスの中の氷がまたいい音色を奏でる。  悪くないね。  こんな風に弟達と輪になって、和やかな時を過ごしたかった。  僕はずっと、ずっと、こうありたかった。  それが叶っていく――      

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