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はじまり 5

「見て、丈先生の車よ!出社日だったのね!」 「はぁ~先生今日も素敵~!」 「ちょっと、ちょっと!助手席に誰か乗ってる??」 「え?今まで朝から同伴なんてなかったのに~」 「ずるい!誰よ。駐車場に見に行こう!」 **** 道端で気を失ってしまった彼を助手席に座らせ、そのまま会社に到着した。 地下駐車場からどうやって彼を運ぼうか迷ったが、女にするように横に抱えあげた。 男にしてはほっそりとした腰回りは、まるで女のように華奢だ。 恐らく貧血だろうから、少し俺のオフィス兼医務室で休ませてやろう。 彼の額に浮かぶ汗をそっとハンカチで拭いてやり、まじまじとその顔を間近で見つめると、本当に整った綺麗な顔立ちであることが分かる。 よほど疲れて…気を張っていたのだろうな。 段々…つっぱっているが、可愛い奴だと思えるようになってきた。 「悪いが、頼む」 駐車場の守衛に鍵を渡して、オフィスへ道案内をさせた。 遠巻きに女性社員たちが悔しそうな視線を送ってくるが、気にすることはない。 だいたい、そもそも彼は男じゃないか。 「ちょっと!丈先生に抱かれているあの綺麗な子って誰?男の子だよね。悔しい~私たち負けてる?」 …だな。 **** ベッドに寝かした彼は悪夢の続きを見ているようで、時折顔を歪め寝言を呟くので、近寄って耳を澄ましてみる。 「…あっ…やめろ…嫌だ…」 「……」 やはり過去に誰かに車中で襲われたのか? この美貌だ。大いに起こりうるな。 正直その道のことはよく分からないが、だいたい察しはつくものだ。 彼の異常なまでの同性への嫌悪感と警戒心、精神科も学んだ私には分かる。 さてこの放っておけない気になる奴と、これからどう接していくべきか。 それが問題だ。
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