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雨に濡れて 3

 あと一駅、もう少しの辛抱だ。  案の定電車に乗ってすぐ、俺の尻を誰だか分からない手が執拗に撫でてきた。まただ……俺は……またこんな目に遭う。 「くっ……」  身をよじって避けても、その手は吸い付くようで離れない。 全身に悪寒が走り身体が小刻みに震えてしまう。俺は唇をきゅっと噛みしめ俯いたまま、時間が流れるのをひたすらに待った。  もう毎度毎度のことなので、身体が慣れてきているといえばそうなのかもしれない。幸い今日の手は控えめに後ろを蠢くだけだ。この位ならこのまま耐えよう。  ターミナル駅に着くとその手も人混みで弾け、俺はようやく自由を取り戻せた。 ホームに降りて冷や汗を拭いながら暗いため息をつき、スーツの皺を整えていると 、後ろから突然声をかけられ驚いた。 「洋……お前、大丈夫か?」  少し青ざめた丈の表情に、見られていたのかと急に恥ずかしさが込み上げてくる。 「……俺のこと、いつから見ていた?」 「やっぱりそうか。痴漢だろう。君はどうして抵抗しない? 私は気が気じゃなかったぞ!何故大声で助けを呼ばなかった」  厳しく問い詰められて気まずかったので、無理やり笑顔を作って答えた。 「俺は慣れているから。こんなこと……いつものことだから。この位なら大丈夫だから、いちいち大事にしたくなかった」  それは嘘だ。前なんて近くのサラリーマンに助けを求めたら 、そいつまで俺のことを触り出して、前からも後ろからも攻められ散々な目に遭ったとは流石に言えなかった。 「おいっなんだ?そんなっ、ふざけるな!私が大丈夫じゃない!」  珍しくいつも落ち着いている丈が大きな声をあげたので、驚いて顔を見つめると 、怒った声とは裏腹にとても辛そうな顔をしていた。 「丈……?」  何故、丈がそんなに怒るのか分からない。  俺は変なのか。もしかしたらあまりに頻繁に起こり過ぎて……感覚が麻痺しているのか。  でも……丈に嫌われるのだけは嫌だとはっきりと思った。

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