「このバイクだが、乗れそうか」 「あぁ大丈夫そうだ。助かるよ」 「気を付けて」 「また夜に！」 　丈から借りたバイクに跨り走り出すと 秋風がひんやりと頬にあたり、眠気も一気に覚めてくる。 　いつも俺のことを気にかけて、打開策を見出してくれる丈。 　ありがとう。本当にこういう同性との普通の関係が久しぶりすぎて、どう反応したらいいのか分からない。まともに顔を見て礼なんて恥ずかしくて言えなくて、ごめん。 　俺の幼なじみの安志以来かな。リラックスできる友人関係みたいなのって。 そういえば帰国したことを安志には知らせないと。 俺たち……酷い別れ方をしたから、気まずくてアメリカからは一度も連絡出来なかった。 　ふと幼馴染の人懐っこい笑顔が頭に浮かんで来たが、やっぱり丈とは少し違うとも思った。安志はほっとする存在だったが何というか丈のことを考えると、何故か俺の胸の奥がきゅっと締め付けられるんだ。 　この感情って一体…… ＊＊＊＊ 　いつものように少しばかりの残業をして、テラスハウスに19時過ぎにバイクで戻った。 窓の外に漏れる橙色の暖かな光に、俺の心は安堵した。 「ただいま」 「お帰り、洋」 「ちょうどいいところに帰ってきたな。ちょっと料理を手伝ってくれないか」 「えっ？あぁいいよ」 　キッチンから香ばしい食材の香りが漂っていたので急いで着替え、手を洗いキッチンへ駆けつけると、丈は忙しそうに調理をしていた。 「悪いが、これを炒めてくれないか」 　肉と野菜を炒めている途中のフライパンを渡される。 「丈……あの、これであってる？」 　実は俺は料理に全く自信がない。 ほとんどしたことがない。ちらっと横目で見た丈が呆れた顔で近寄ってくる。 「駄目だな。もっと鍋の底からひっくり返すように炒めるんだ。これでは焦げてしまうよ」 「こっこう？」 　勝手が分からないので、ますますぎこちない動きになってしまい、ついには焦げ臭い匂くなってきた。 「おいおい」 　丈は俺の背後にぴったりと立ち、俺の右手にその手を添える。 丈は俺より10ｃｍ以上背が高いので 、俺はまるで後ろから抱きしめられているような感じになり、思わず赤面してしまった。だが添えられた右手は不思議なことに少しも嫌ではなく、むしろ心地良かった。丈の骨ばった大きな手で包まれ、温かいとも…… 　狭いキッチンで丈に背後に立たれ身動きが取れない俺は、高鳴る心臓の音を聞かれないようにと身をきゅっと固くした。 「洋？ 聞いているのか。コツ、分かった」 「……あっうん、なんとか」 　しばらく無言の時が過ぎた後、丈は素知らぬ顔で違う作業に取り掛かってしまった。 俺は耳まで赤いんじゃないかと思うほど顔に血が上り、 そんな反応をしてしまう自分の身体の変化に、ただ驚くばかりだった。