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口づけの跡 2
ひんやりとした朝の空気が旅館の和室の布団で眠っている私の元へ届き、はっと目が覚めた。
なんだ、もう朝か。
「洋……寒くないか」
夜中に私の腕の中で眠りについた洋を抱きしめようとしたが、もうそこにはいなかった。霞のようにつかめない……その感覚がいつか洋を失うのではという恐れと重なる。身を起こし洋の姿を探すと、窓辺に佇んでいたので、私はその綺麗な横顔を観察するように静かに眺めた。
陽があたると少し茶色く透き通って見える柔らかな髪。
鼻筋が通った美しい横顔。
笑うとハート型になる形の良い唇。
私の中で桜色に染まる頬。
何より私を魅了してやまないのは、憂いを含んだその目元。
何故こんなに麗しく美しく生まれついたのに、そんなに悲しげな目をしているのだろう。
たまに見せる、侘しそうで切ない表情が気になる。
洋の喜びも悲しみも、そのすべてが愛おしくてたまらない。
じっと見つめていると洋が気が付き、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「丈、起きたのか。今日は気持ち良い青空だよ」
洋の首筋には、昨夜私が残したキスマークが大きくついていた。
汚してしまった。昨夜は洋に無理をさせてしまった。
初めて抱いた日から、洋はいつも私が頼むことに従順に従ってくれ、いつも思い通りに抱かせてくれる。それをいいことに昨夜は離れがたく、疲れ果てた洋を何度も執拗に求めてしまった。
とうとう最後には洋が苦しげな表情を浮かべ、涙を浮かべていたことに気が付いていたのに、やめることが出来ず、半ば無理やり私のものを押し挿れてしまった。さらに離れがたく、なかなか抜くことが出来なかった。
****
「うっ丈……もう……もう今日は許してくれ」
「洋……好きだ。だから」
私は高揚が収まらず、互いに達したばかりで濡れた洋の脚をもう一度大きく開き、ぐっと萎えないものを挿入した。
「あっ……も……無理。もうイケない……」
洋が苦しげに懇願する少しの抵抗なんて無視して、逃げ出そうとする洋の手首をシーツにぎゅっと縫い止めた。さらに私のものだという印をつけたくなり何度も首筋を執拗に吸ってしまった。
「痛っ!あっ……そこ目立つ。っつ……もう限界……もう許して……」
「洋……洋……」
「はぁ……痛っ……抜いて」
****
洋がまた羽をつけ私の元からすり抜けどこか遠くへ去ってしまう気がして、あんなにも強引に愛してしまった。
洋の意識が霞みだし飛ばしていくのが分かっていたのに、それでもさらに穢れなき身体を、私のすべてで汚したくなってしまった。私は野獣か……こんなに自分が獰猛だったとは呆れるほどだ。
許してくれ。
あんな風に抱き潰すように、激しく抱いたことを。
最後には苦痛の表情を浮かべていた洋のことを思い出し、急に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(許してくれ……)
心の中でもう一度深く呟いた。深い懺悔と後悔のため息の後、私は少し明るく声をかけた。
「今日は外に出かけよう。昨日行きたがっていた小川の方へ行くか」
「えっいいのか。俺も今日は外の空気を吸ってみたいと思っていたところだ」
「あぁ……それと昨日は悪かった。どこか痛い所はないか」
「……それは大丈夫だ。着替えてくるよ」
洋は少し意外な顔をした後、晴れやかな笑顔で嬉しそうに微笑み、隣の部屋へ消えて行った。
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