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あの日から 7

やっぱり深夜だ。 俺のマンションは駅まで距離があり夜は寂しい道なので、急に心配になり、結局、洋の後姿を追ってしまった。 「洋…待てよ」 「どうした?」 「やっぱり駅まで送るよ」 「ふふっ…相変わらず安志は心配性だな」 「でも丁度良かった。ありがとう。駅はどっち?」 「方向音痴も変わらないな」 「この駅は初めてだからだ」 たわいもない話をしながら久しぶりに肩を並べて歩くと、心が温かくなってくる。 小さい頃から、よくこうやって肩を並べて歩いたよな。 家が近所だったから帰る方向がいつも一緒だった。 高校の頃は、いつも朝洋の家まで迎えに行っていたよな。 あの日の朝までは… 「あのな安志…俺さ、最近不思議なことがあったんだ。ずっと探していたもの…待っていたものに出逢ったような感覚。なんだろう?俺にはない記憶なのに…こういのデジャブっていうのか」 「…?」 「ふふっなんでもないよ。今日は飲み会に無理矢理だったけど連れて行かれて良かったと思うよ。お前と再会できるなんてな」 「ったく、帰国してたんなら、電話位よこせよな」 「ごめん。俺さ…向こうに引っ越す時に、みんなの電話番号とか…もう何もかも捨てちゃって…」 「そっか、それでもまたこうやって会えたことに感謝するよ」 「うん、本当にお前には心配かけたな。俺も少しは強くなったよ。だからもう心配するな」 そういって微笑む洋はだけど、俺からみたら相変わらず危なっかしい儚げな雰囲気を漂わせているけどな。 「安志!ここまでだ。ここでいい。また連絡するから」 駅の改札に着くと、洋はこれ以上付いてくるなという雰囲気で、足早に改札をくぐって行ってしまった。 結局、今どこに住んでいるのか聞き出せなかったな。 洋の後ろ姿を見送っていると、酔っ払いの声が雑踏に紛れて聴こえた。 見渡すと洋のことを振り返ってニヤついている男たちがいた。 「あいつ…こんな遅い時間の電車に乗ったら…また嫌な目に遭わないかな。くそっ!心配だ!」 慌てて俺も改札を潜り、洋の上って行った階段を目指しホームに上がった。 ホームに着いて洋の背中を見つけたが、すぐに電車が到着したから話しかける間がなかった。だからつい俺もその電車に乗り込んでしまった。 「すっすいません。通してください。」 混んでる車内で、今度こそちゃんと洋の近くへ行こうと思った。 だから人を掻き分けて近づいていく。 高校時代のように遠くからただ見ているだけでなく 「ちゃんと洋の近くで洋を護りたい!」 そう思ったから。

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