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あの日から 6

俺を信じ切って眠ってしまった洋を支えながらタクシーに乗って、大学入学と同時に一人暮らしさせてもらっているマンションへ帰ってきた。 「洋っおい、参ったな…しっかりしろよ」 無防備に俺の部屋のベッドですやすやと寝息を立てる洋を眺めていると、複雑な気分になる。 そういえばお前と酒を飲むの初めてだったな。 5年ぶりに間近でみる洋。 つい、まじまじと見つめてしまう。 相変わらず細い首だな。 白く透き通るようなうなじが綺麗だ。 少し癖があるクシュっとした黒髪もあの頃のままだで、長い睫毛は目を閉じていると艶めいた陰影を生み出していた。 通った鼻筋が品があって、キュッと引き締まった綺麗な形の桜色の唇にもドキッとしてしまう。 高校時代のままの洋だな。何もかも… 5年の歳月が流れたのを感じさせない外見だった。 ただ5年前より変わったのは、雰囲気に色香が増したような気がする。 ずっと小さい頃か見守っていた洋なのに…5年も離れていたから、何かが少し変わってしまったような気がする。 「んっ…」 洋が起きそうになり瞼を動かし始めた。 「洋?大丈夫か?水飲む?」 「ん…あぁ」 まだ寝ぼけている洋の肩を支え起こしてやると、洋が小さく何か呟いた。 「じょ…う?」 「…何?今なんて言った?」 途端にはっとした表情で洋が目を開けた。 少し焦った表情で、辺りをキョロキョロ見回している。 「あ!安志!ごめんっ…ここどこ?」 「俺の家だよ」 「えっ!?悪い今何時?」 「もう23時過ぎだよ」 「そんな時間、まずいな」 「こんな時間だよ。泊まって行けよ」 「いや…帰らないと」 「そういえば洋はどこに住んでいるんだ?送って行くよ」 ガバッと身体を起こし、俺の言葉を無視して慌てて帰り支度を始める洋に思わずムッとしてしまった。 「おい、そんなに急ぐことないだろ。せっかく会えたのに。」 「…でも、心配するから」 「誰が?そういえば…お前さっき誰かと間違えただろう?」 「あっ…」 しまったというような顔をするので余計に気になって、つい言葉がきつくなってしまう。 少し諦めたような顔をした洋は、もう一度ベッドに腰かけて息を整えた。 「安志…俺会いたかったよ。お前に。あんな別れ方して気になっていた。でも…俺はもう高校生じゃない。あれから5年も経ったんだよ。いろいろ前とは違うんだ」 「そんなの分かってる…」 「だから、言いたくないこともあるし、聞かないで欲しいこともあるんだ。ごめん…」 きつい言葉だった。その通りなのは理解しているのに。 「…」 「…安志?大丈夫?」 少し心配そうな言い過ぎたというような躊躇う顔で…洋がじっと見つめてくる。 「…」 「言い過ぎたよ…ごめん」 途端に心配そうな声で洋が心をこめて丁寧に詫びてくる。 こういう所は小さい時のままだな。 「分かったよ。また会おう。せめて連絡先だけでも教えてくれ」 「…」 「その位してもいいだろう?」 「うん…じゃあ携帯の番号でいい?」 「あぁ」 「家まで送らなくていいのか」 「っつ、過保護な幼馴染だな。俺は男だぞ!」 「悪いつい…」 「じゃあな。安志ありがとうな」 困ったような顔で微笑む洋を送り出し、俺は壁にもたれて、ため息をつく。 洋…綺麗になったな。 俺は今でも洋が好きみたいだ…やっぱり。 こんなんじゃ…洋を想う悶々とした気持ちでとても寝れない。

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