洋を誘い静かなバーに移動した。 5年ぶりに会った洋とゆっくり落ち着いて喋りたかった。 久しぶりの洋は、俺の幼馴染の洋のままで気を許して話してくれる。 また俺に微笑んでくれる洋を見ていると、高校時代の日々を思い出す。 二人で乗ったあの満員電車… 触れそうで触れられない距離感に悶々としていた心。 あの日のあの屋上階段での出来事。 あんな告白しなければよかったよ！ 何度も何度も後悔したんだ。 あの時の洋の驚いた顔が、ずっと忘れられなかった。 あの日から洋が学校に来られなくなってしまい、心配して何度もうろついた家の前。 どうしても勇気が出なくて押せなかったインターホン。 そのうち足が遠のいていった。 1か月程してから、先生から洋がアメリカへ家の都合で渡米したことを聞いた。 慌てて駆けつけた家は既にもぬけの殻だった。 連絡先も言わずに消えてしまうなんて…ひどいじゃないか。 ずっと洋から手紙でも来るんじゃないかって淡い期待をして、ポストを覗いていた俺。 1年…2年…とあっという間に月日は流れ、洋がいない高校は何かが物足りず、あんなに打ち込んでいた野球も辞め、何となく過ごし何となく大学へ行き、普通に就職したんだ。 大学に入り、女と付き合っても、すぐに別れることの繰り返しだったよ。 俺は…いつまでも未練たらしく洋の帰りを待っていたのかもな。 ＊＊＊＊ 「はぁ…」 安心した表情で俺の肩にもたれて眠ってしまった洋を見て、ため息をついた。 こんなに安心した顔をして、これじゃ何もできないな。 「洋！おい起きろよ。家どこだ？送っていくよ」 「ん…」 肩を揺すっても一向に起きる気配がない。 「おい！洋！」 はぁ…困ったな。 「送って行くから今住んでるところ教えてくれ」 「ん……いや…安志んとこで休んでいけば一人で帰れるよ…」 「えっ！」 俺はそんな申し出になぜか動揺してしまう。 邪な気持ちが芽生えてしまうじゃないか。 まったく洋の奴は、いつも俺に対しては無防備すぎる！