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第3話(蒼衣side)

ベッドで目を開けて、明るい日差しが差しているのを確認して安堵する。 いい天気だ。 実はそんなに雨の日は嫌いじゃ無いけれど、旅行となれば別だ。晴れた方が気分的に上がる。 たっぷり睡眠を取ったおかげですっきりとした目覚めだ。 朝食を取り、身支度を済ませてから部屋に戻って、昨日準備していた荷物をベッドの上に置く。 忘れものが無いようにと、お気に入りの黒のグレゴリーのリュックの中をごそごそ点検する。 下着や着替え、洗面用具の下にひっそりと忍ばせた紙袋。 薬局に買いに行った時、覚悟してレジに持って行ったものの、恥ずかしさはどうしても拭えずきっと真っ赤な顔をしていたと思う。 コンドームとローション。 買うのはもちろん初めてだ。 何だかやっぱり恥ずかしくて、紺には相談出来なかった。どっちがどっちとか、必要な物を誰が準備するとか。多分紺も考えてくれてるとは思うけど。 「抱く」って言ってたしな。俺が受け入れる側なんだろうし。それに関しては異議は無いんだけど。紺に可愛がって貰いたい。甘えたい。 ずっと片思いだったから。 何か、自分でも準備したかったんだ。 俺も紺と早く繋がりたいって思ってるって事。 知って欲しかったから。 母さんとじーちゃんばーちゃんに行ってきます、と声を掛けてから家を出た。母さんは笑いながら楽しんで来なさいと言ってくれて、じーちゃんばーちゃんは気をつけて行って来いと、お年玉袋に入れたお小遣いをくれた。 ちょっぴり後ろめたい気持ちもちらりとよぎったけれど、2人きりの旅行を楽しみに思う気持ちの方が強かった。 家を出て道路に出ると、ちょうど紺も二軒先の自宅から出てきたところだった。 2人で顔を見合わせて絶句した。 黒のキャップにボーダーTシャツ。 チノパンにGジャンとリュック。 見事に服がまるかぶりだった。 服の好みが似ているので、よく一緒に買い物には行く。でもここまでおんなじなのは初めてだった。ボーダーの幅とかGジャンの色の違いとかはあるんだけど。それにしてもこれは恥ずかしい。 固まる俺に、紺が堪えきれず、といったふうに笑い出した。 「相談なしのペアルックとか、俺ら気が合い過ぎじゃね?」 別にいいじゃんこのままで、と嬉しそうに信じられない事を言う紺にほんと勘弁して、と赤面しながら俺は大急ぎで着替えに家に戻ったのだった。 「おぉ〜‼︎すげーな、海だ海!」 案内された旅館の部屋からは穏やかな春の海が見える。 午後の優しい日差しがキラキラと水面に反射して眩しい。 和室の隣にはベッドが2つ。寝室の隅にある障子で出来たルームライトが和モダンって感じだ。テラスにはテーブルとイス。隣には小さいが露天風呂が付いている。部屋に露天風呂。和と洋が調和したお洒落な客室。部屋から見える海。 あまりこういう場所に来慣れていない俺でもわかる。 「これ絶対高いだろー…。」 部屋をぐるっと見回して、思わず漏れた呟きに紺が苦笑いする。 「母さん、昔っからくじ運すごいんだよね。 商店街のくじ引きもさ、当たりが出た瞬間、係のおじさんに「また奥さんかー!」って言われたって。」 「紺、くじ運全然ないのにな。」 「くじ運は分けて貰え無かったらしい。」 「でも由里さんのお陰でこんなに良いとこに2人で卒業旅行に来れたんだから、ほんとに感謝してる。」 「だな。」 微笑みながら紺もうなづく。 「あ、そーいや聞いておきたい事あったんだよな。」 ふと思いついたように切り出した紺が、急に真面目な顔をしたので俺も思わず真面目な顔で聞く。 「母さんズさ、俺らが付き合ってんの気付いてんじゃないかな、と思って。」 「えっ‼︎マジで⁉︎」 考えてもみなかった事だったから、びっくりして大声で聞き返してしまった。 「いや、聞かれた訳でも無いんだけどさ、何となく?」 …うん、まあ確かに。 今日着替えに戻った時も、舞い戻った俺に驚く母さんに予期せぬペアルックだったから着替えに戻ったと告げると。あー、そういえばすげーニヤニヤされたわ。 「まぁ、でもあの2人に隠し事は出来る気しないけどね。」 「だよなぁ。ま、なるようにしかならないよな。」 「だね。」 のんきに2人で笑い合う。 反対されたってもう別れらんないけどな、って紺のつぶやきにきゅんとさせられながら。 夕飯の時間までまだ時間があったから、大浴場の露天風呂に2人で入りに行く。 世間は春休み中だろうが、平日だった為か露天風呂は俺たち2人だけだった。 プールだの修学旅行だの、紺との裸の付き合いは初めてでは無い。あの時は気持ちがバレないように隠してたし。ジロジロ、は見てなかった、はず。 でも想いが通じてからは自分の裸を見せるのも、紺の裸を見るのも初めてだ。 なるべく意識しないように。 自然に。 …駄目だな、これ。 いや、無理無理無理。 は、恥ずかしいんだけど。 脱衣場でぎこちなく、なるべく紺を見ないように服を脱ぎ進めてはいるけれど。 あいつ俺の事めっちゃ見てないか? 紺の視線をビシバシ感じる。 顔に熱が集まって来るのを意識しながら、こわごわ横にいる紺を見る。 案の定バッチリ視線はぶつかったけど。 予想外だったのは、紺の顔もまっかっかだったこと。 「なんだろな、これ。今までお前の裸なんか腐るほど見てるし、何とも思わなかったのに。めちゃくちゃドキドキすんだけど。 初恋マジック、すげーな。」 何も着ていない、しっかり筋肉のついた胸を両手で押さえて真剣な顔で言うもんだから思わず笑ってしまう。 嬉しかった。 恥ずかしくてどうしようもないけど、好きな人が自分の裸でドキドキしてくれている。 残りの下着をさっと脱いで、紺に近づく。とっさに体を引いた紺のおでこにキスする。 「お先!」 呆然と立ち尽くす紺を尻目に、浴室への扉に小走りで向かう。 「お、お前なぁ!キスとか、まっぱとか!はしたないぞ!ドキドキするっつってんだろ!」 一回浴室に入ってから、もう一度紺に向かって顔を出す。 「もっと凄いことしようとしてるくせに。」 イーっとして見せてから洗い場に向かう。 可愛すぎるだの、この小悪魔だの、紺の独り言を聞きながら。

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