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つづき

 世の中がボーナスで浮かれていたのは先月。盆を控えて帰省する人、逆に帰省してくる人を迎える人、イベント事を控えた前は財布の紐が固くなる。それに飲食にとって恐怖の「にっぱち」次期だ。(2月と8月は何やっても売上落ちるよね~の合言葉がニッパチ)  込み合ってシッチャかメッチャカになることがないので、新人君にもちょうどいい。  ハルはあの日曜日を境に取り組み方が変わった。料理の特徴や作り方を質問してくるようになったし、鍋に残ったソースをスプーンですくって味を確かめたりなんてこともする。  サトルに「シェフとお客さんの橋渡し役」と言われたことが大きく響いたらしい。最近は仕事の優先順位が明確になってきたし、けっこう任せて安心だ。  シゲミツ君を使いこなしてくれたまえ。  蓋を開けてみれば 有難い名前同様、なかなかどうして優秀な眼鏡男子でございました。ハルが軽く凹んでしまうほどに。 「ハルさんがわかりやすくアドバイスしてくれて助かりました」 「いいえ。なんだかデキる人はやっぱりすごいんだなって。僕はいつまでたってもペーペーです」  シゲミツ君は本気で言っているし嫌味がない。それはハルもわかったみたい。 「僕もっと頑張らなくちゃですね」 「いやいや僕は30歳こえてますから。お客さんになった回数も、逆の立場の場合も単に経験値の違いですよ。乱暴だったり失礼なお客さんがいなかったので助かりました。それにこのお店はホッとする」 「ですよね~僕もここが大好きです。 あとシゲミツさん。ハルさんって、なんかしっくりきません。僕年下ですよ?」 「んん~かわいいからハルちゃんでもいいけど、それだと違いますよね。かわいこちゃんだと舐めたら反撃に合いそうですしね、うん、やっぱりハルさんで」  なんだかしらんが、仲良しじゃないの。言っておきますがハルって呼ぶのは俺だけなんです!(何張り合ってんだか……俺ってば子供?)

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