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つづき

「一番簡単な台所から攻めよう。俺の台所用品で役に立つものってある?」  勝手知った我が家の台所。飯塚はあちこち扉を開け、引出を引っ張りだし、中身の点検をはじめた。 「調味料関係はもったいないから捨てることはないけど、道具は持っていきたいものがほとんどない。ボウルとザルはプラスティックだからいらない。食器はあいかわらずの品揃えだな」  ふん!大きなお世話だ。なんでも盛れる大き目のプレートが二枚。小皿が4枚。ボウルが一個(これは茶碗にもなるしスープにも使える。とにかく何にでも対応できる万能君だ)あとは箸とフォークとスプーンが2組、以上。よくこれで生活していたと思う。飯塚があきれるのもモットモなのだ。 「それで、これなに?」  若干低めのトーンで質問される。飯塚が手にしているのは鮮やかなブルーの大皿。ああ、やっぱりみつけましたか。みつからないように奥の奥にしまいこんでいたのに。 「あ~それは~誰かが持ってきた。一回しか使ってないけどね。 色が綺麗だから捨てるのもなんだし」 「ゼクシイ女か」  うわ、ひどいじゃないの、その呼び方(当たってるし、ええ里崎さんの貢物です) 「これは不愉快だな、俺達の家に置く必要がない。でも悪いものじゃないから店で使おう」  うきゃっ!「俺達の家」だって。こそばゆいよね、こういうの。えへへ。 「鍋とフライパン、これはいらない。そういえば電子レンジないんだな」 「おう、コンビニで温めてくれるし、自分でつくったものを温めなおすとかありえないシチュエーションだったから。あるのは冷蔵庫と炊飯器。あとちっこいトースター」 「炊飯器はうちにないから持っていくか。冷蔵庫は処分だな、これだろ?モーターが唸りまくって煩いの」  そうだった、飯塚は土鍋で米を炊く。 俺にはできない技だから炊飯器は必須アイテムになるはずだ。こうして台所整理はあっけなく終わってしまった。  スタスタ進んでいく飯塚の後に続く。いきなりベッドの前で腕を組んでの思案顔。 「ベッドどうすんの。まさか持っていくとか言わないよな」 「え?持っていくよ、どこで寝ろっていうんだよ」  そこには唖然とした飯塚が立ち尽くしていた。いや、でも、その、一緒に住むけど一緒に寝るとか(毎晩!)それってどうなんでしょうか。同じ場所で働いて、一緒に帰ってきて、寝る場所も同じで、あげく目覚めても尚、飯塚。  いや……それどうなの? 「だって、そんなずっと顔あわせてくっついてとか、すぐにウンザリがきちゃうかもしれないし。それに喧嘩したりして寝るとこがないって、それはよろしくないと思わないか?」  唖然→しょんぼり→怒り。阿修羅さんとは表情が違うとはいえ、カシャンカシャンと入れ替わるみたいに変わる顔。これはいけません。 「ちょっと冷静になれよ」  飯塚の手を握りながら優しく聞こえるように気を付けながら話しかける。 「俺のベッドは小さいから、普段は飯塚の所で寝るよ。でもさ、どっちか風邪ひいたりするかもしれないよな。共倒れは不味いよ。会社勤めならどうにかなっても、これからは一人の役割が大きくなるんだし。 それにお前が風邪ひくってことは身体がシンドイのはもちろんだけど、舌と鼻が利かなくなる。それって非常にまずいだろ」  もう片方の手も握る。 「備えは必要だ。もしかしたら喧嘩をするかもしれない、その時にも必要だろ。だってさ、ホテルに泊まったりされたら堪えるじゃないか。寝るベッドが違っても同じ家の中だと救いがあるだろ?出て行かれたら最後通牒みたいじゃないか」  握った手をひっぱりベッドに腰を下ろして飯塚を見上げた。

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