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つづき

 たぶん、これで納得するはずだ。飯塚の顔を見ながら言葉をつづける。 「俺さ、できるだけ長く一緒にいたいんだ。だから色々話をして、お互い納得して一つ一つ解決していきたい。 俺はベッド持っていきたいわけ。ええと……その一番の理由は……誰か遊びにきて寝室が一つしかないとか、なんか猛烈に恥ずかしくない?照れない? それがミネや正明でも、やっぱり恥ずかしいんだよ。 マゴマゴすると格好悪くなるしさ、俺のつまんない自尊心なんだよ」  飯塚はようやく笑顔になった。いきなり体重をかけられて背中からベッドに沈み込む。おい!まだ話の途中じゃないか! 「かわいい。お前かわいすぎて、頭が狂いそう」  うわ、何気にスゴイこと言ってますよ、飯塚さん。 「なに言ってるんだよ!まだ台所しか終わってないんだから、どけよ。重たいじゃないか」 「来週から日曜の仕事が終わったらここにくる。いるものといらないもの、その選別だけ暇みてやっておいてくれればいい。月曜に俺がいるものを梱包するから。運べるものは運ぶよ」  上半身を少しだけ起こした飯塚の手が俺の頬に添えられる。 「できるだけ早く一緒に暮らそう」  あああ……だめだ、この無駄に男前。俺のこと大好きだって顔で、どうしてそういうこと言うの。これに堕ちない人間がいるなら教えてくれ!  承諾の替りに添えられた手のひらにキスを一つ。自然に重なる唇。 「俺達相当なバカップルじゃないか?」 「恋愛とは二人で愚かになることだ。ポール・ヴァレリーがそう言っている」  首に腕を巻き付けて近くなった耳元に囁く。 「じゃあさ、ここに来た目的を忘れて、二人で愚か者になろうか」  降りてくる熱を帯びた視線。抵抗できるはずがない。 「早く一緒に暮らそうな」  飯塚を感じるために、俺はゆっくり目を閉じた。

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