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つづき
「あの、いったい……どうされたのですか」
「ん?どうって、たまには出てきてもいいじゃないの。もとは札幌市民だしね。ハルのおススメはなに?」
「今日は、カレーと冷製パスタです」
「んじゃ、カレーにする。で、飯塚ってのはあのデカイほう?」
「は。」
「ふ~ん。なるほどね」
「オーダー通してきます」
「あ、ハル。その飯塚に言ってくれる?お兄様に是非食べてほしい一皿をオーダーしますって」
やはり、この人はタダ者ではない。抵抗する気力が奪われて、我儘だろうがヘンテコな事だろうが「やらせていただきます」と言ってしまう魔力がある。
コンビニ時代は割と事前に予定を組み込んでおけばシフトで調整できたから、タケさんの所に散髪に行くのは問題なかった。でもSABUROに来るようになると休みは週に1回。
理さんも仕事に加えてSABUROの事を色々やっているし、高村さんに連れ出されて日曜が休めなくなったりしたりで、僕達が揃ってタケさんに髪を切ってもらうのが難しくなったのです。『いいよ、でもたまには来いよって言ってた』しばらく行けないことを伝えた時タケさんはそんな感じで理さんに言ったようです。
僕の頭をガン見していました!変だってこと?この髪じゃダメ?急に不安になってきました。(腕は確かなんですよね、タケさん)
「オーダー入ります。12番さんカレーです!」
「あいよ~。ハルの知り合い?」
「と言いますか、皆さんにも関わりが……あっ!飯塚さんオーダーです」
「テイクアウトか?」
「いえ、12番さんです。『お兄様に是非食べてほしい一皿』を承りました!」
「お兄様?」
「飯塚さん!あの人、理さんのお兄さんですよ!」
「あの姉さんの旦那ってことか?」
「はい!」(お姉さんに会ったことないでしょ、飯塚さん)
「わかった」
ミネさんはさりげなくタケさんを見た後、手元に視線をもどしてニンマリしている。面白くなりそうだって思っていますね?ミネさん、それは大間違いです!とばっちりきますよ。僕なんか事情もわからないまま田舎につれていかれて、いきなり髪形変えられたあげく、スパイにされたんですから!ついでにホッペにチューもされました!(未読の方は『chapter18 正明、由樹とご対面』をどうぞ~)
セットのスープとサラダを運ぶとタケさんは「うまそ~」と言いました。会話ができたのはそれまで。仕事に追われてタケさんには構っていられなくなってしまいました。
ちなみに「お兄様」に捧げる飯塚さんの一皿はだし巻玉子。
揚げ野菜がゴージャスに盛られたカレーとのギャップに正直僕は震えがきましたよ。飯塚さん、このチョイスはなに?抵抗ですか、バカにしているのですか、それともタケさん卵好きなんていう情報でもあるのですか?細長い黒の洋皿に黄色のふわふわ卵は美味しそうでした。大根おろしも真ん丸に成形されて可愛かったし。しかしもっとお洒落な一皿があったのでは?
大人の男のすることはわかりません。
そしてラストオーダーの時間になって追加ナシとなった瞬間、タケさんが厨房近くに登場。
「イイヅカ君、ちょい、つきあってくれる?」
飯塚さん、黙って従うの図。
「タダもんじゃねえな、あの兄ちゃん」
「ええ、ミネさんより先に僕のことハルって呼んでいますからね」
「まじかよ!」
「ええ。ミネさんにハル言われて、タケさんと一緒の思考回路の人なのかと思いましたもん」
僕とミネさん、タケさんに拉致られる飯塚さんを見送るの巻。
またまたつづく!
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