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つづき

武本はニッコリ笑って俺の手をとった。 「いつも真剣に考えてくれているって、それを実感するのはすごくいいものだって思わないか? 飯塚はちゃんと俺を見ていてくれている。そして俺も飯塚を見詰めている。 俺達は仲良しで、お互いを必要として、未来を共有して生きていくことを歓びとしている。すごくいい気分だ」 「ああ、心が澄みきるような清々しさがある」 「それじゃあさ、月曜の休み。俺適当にスケジュール組んで外回りに出るから買い物に行こう」 「買い物?」 「ファミリーリングを作ろう。姉ちゃんとよし兄と、お前と俺。お揃いの指輪。 子供ができたお祝い、俺達を認めてくれたお礼。俺と飯塚の家族記念」 「……ファミリーリング」 「飯塚には虫除けにもなるし。あ~でも仕事中は指輪できないか。じゃあ、あれだ。指輪はチェーンにつけて首からぶら下げろ。 それでランチとディナーのラストオーダーがなしってなったら、首からひっぱりだして指輪にキスしろ」 「はああ?」 「気持ちこめろよ。『武本、俺は今日もがんばったぞ』とブチュウ。 よし決定! 姉ちゃんとヨシ兄にはサイズを聞いておく。なんて顔してるんだよ」 そりゃあ、こんな顔にもなるだろう。大勢の前で(特にカウンター周辺は女ばかりだというのに)指輪にキスだと?考えただけで顔から火がでる! 「言っておくが俺だってするぞ会社で」 「えっ?」 「社員がなんとなくおやつ食べてダラダラしている時に、みせつけてやる。 想像してみろよ、俺がお前を思って指輪にキスしている姿」 それはいい眺めだ。武本の姿を見て、女どもは悲鳴をあげればいい。 「わかった……する」 ファミリーリング。それは二人の証と家族のしるし。そして虫除け。 まあいいか、いいことにする!

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