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つづき
「ヨシさんに「よし兄」って呼べって言われて本当に兄貴ができたような気持ちになった。そして子供が生まれる。
俺はこの1週間ずっと考えた。何回イメージしても同じ言葉に辿りついてしまう。
俺は武本と恋人だけど家族になりたい。俺はそう願っているってことなんだ」
武本は持っていたビールの缶を落しそうになって慌てて両手に持ちかえた。やはり驚かせてしまったか。
「……ええっと。それってどういう意味?結婚したいってこと?」
「いや、そうじゃない」
武本はしっかり俺の目を見て、ちゃんと聞いてくれている。笑いもしないし引いてもいない。俺の真意を聞こうと真剣だ。やっぱりいい男だなと思ってしまう。
「籍を入れるとか、一緒に住むとかそういう次元じゃない。なんて言ったらいいのかな。
俺にとって半身をみつけたと思えるぐらい、武本の存在は大きなものだ。
そして二人で並んで歩いていけるという想い。それを実現させてやるという気概。
同じものを見て笑って、悩んで、前進していきたい。
それは結婚を決める男女が思うことと違うような気がするんだ。ゴメンうまく言えなくて」
武本は俺の言葉を噛み砕いているのか、腕を組みながらじっと考え込んでいた。
少し唇を噛んだあと、またしっかりと俺を見詰めた。
「それを考えたきっかけは?」
「ヨシさんと紗江さん、そして生まれてくる子供。皆が望む幸せな家族の形だろ?でも俺が欲しいと思う物は違うということに気が付いた。
別に武本との子供が欲しいわけではない。「結婚」という形を望んでいるわけでもない。
常に相手を思い、そして一生切れない縁を望んでいる。
どんな場所にいても、離れていても、一緒にいても途切れない形。
それを言葉にしたら「家族」ということになった」
1週間考えたけれど、これ以上の形にならなかった。互いの場所が帰る場所であり生きていく家。そこにいる二人は「家族」じゃないのか?
「俺は……人生のパートナー、そう考えていたよ。結婚する男女も人生のパートナーっていう言い方をするけれど、男は子供を産めない。女性は子供を産めるけれど、それとキャリアを両立することが難しい。
お互いに平等だといっても役割が違うから完全な平等なんて机上の空論だと思う。
でもな、俺と飯塚は対等だ。互いに男で上を目指す強い気持ちを持っている。
プライベートのパートナー、そしてビジネスパートナーでもある。
それは俺達すべての世界を共有しているということだ。
だから「人生のパートナー」だと思う。お前の言う「家族」もそうだろ。
俺達の世界が一緒で、それを違う目だけれど同じように見ることができる。
俺にとって飯塚はそういう存在だ。たしかに半身かもしれないな。ぴったり合うもんな、色々と」
人生のパートナー、家族。同性の俺達の場合、世間が言う結婚と家族の有り方を実践することはない。それを望んでいるわけでもない。
だからこそ、俺達の想いが「形」になる。選んだ言葉は違うけれど、武本と俺は同じ場所を見詰めて同じ歩調で歩いている。
なんて素晴らしいことだろう。この共有こそが愛のかたちなのかもしれない。
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