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すずさんのお仕事
「暑っ」
歩きながら正木がボソっと言った。そりゃあ9月といえば秋だけれど、大阪は札幌の真夏並みに気温がある。おまけに湿度も高い。
梅田のホテルをでて目指すビルは前方に高々とそびえている。空中庭園がある素敵な外観のビルの3Fが今回の展示会会場。会場レベルは問題なし、問題なのはかわいくない値段の会場費。
今回の目標予算をクリアできるのか?それを考えると胃がキリキリするけれど、ここまできたらやるしかない。
「今日の集客予測立てた?」
「立てました。だた連休の初日は見極めが難しいですよね」
「でも朝礼で目安だしておかないと営業だって困るからね。まあいいや、あとで見せて」
営業が会場にくる2時間前に私達は会場入りする。昨晩の搬入は22:00からだったから2時間程度しか寝ていない。時間外に搬入をすませると会場費の削減になるけれど、同じく体力が削られる。
ビルはとても近く見えるのに、なかなか辿りつかない。毎回来るたび思うけれど、微妙に遠いわよね、駅から。
「会場の中、涼しいかな」
「なわけないでしょ。空調は9:00からです。余計な経費は使えないでしょ」
「非生産部門はいつも厳しい環境ですね」
非生産部門。たしかに直接数字を叩きだす営業と違って、企画は経費という名のお金を使う部署だ。宣伝広告費、会場費、移動費などなど。
特に今回は主催がうちの会社じゃない。主催は某媒体グループの事業部になるので、歩合という通常にはない経費が伴う。その代り、先方の持つ番組内での告知という宣伝が可能になった。
商圏が50万人レベルの都市だと紙媒体・電波媒体の組み合わせが可能になるけれど、100万人を超える商圏で電波を使うには膨大な金額が必要。あの15秒のTVCMが1本いくらになるのか誰も考えたことはないはず。私も初めて知った時は眩暈がした。それくらい高い。
GRPを満足いく数値にするために必要な出稿数を考えたら恐ろしい金額になってしまう。大阪のキー局では軽く1本10万円を超えてくるから私達の会社が掲げる目標値では広告として使えない。
今回は番組告知とDMが宣伝広告という、かなりピンポイントな販促になった。これは社内でも揉めに揉めたが、いたずらに目標値をあげた所で回収できなければ意味がない。今回は来場者数が目減りしても決定率を上げていく作戦に切り替えたのだ。
関西をターゲットにDMを発送しシルバーウィークにぶつける。つねにハイリスクハイリターンの勝負だけれど、今回は特に博打度が高い。帰りたくなってきた。
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GRPって?
TVCMのざっくりとした効果数値。視聴率1%の番組に1本CMを流しました。
これが1GRP。
CMを見てイベントを認識してもらうためには最低100GRP必要というのが当時の目安。
視聴率の高い番組にCMを出稿すると当然お高い。深夜の視聴率が安い番組に出稿しても意味がない。そのバランスと予算との兼ね合いになるのです。
局でも全然違う。札幌は日テレ系が一番高かった。次いでフジ。深夜で安いはずが「どうでしょう」の枠は高かったり。
「CMになったからトイレ!」これって実は出稿する側になるとションボリだったりするのです。
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