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「今日の西山はおとなしいな。東京のイケメンリサーチに同行した時は、もっとテンション高かったぞ」
北川さんに言われて、その通りだと自覚。私が一番おかしいと頭をひねっているのだから。
トアと呼ばれている背の高い眼鏡男子が料理を運んできてくれた。正明君の言っていた皿はチーズがトロトロで見るからにアツアツ。プスプス湯気をあげている溶けたチーズはゴクンと唾を飲みこむほどの威力がある。
「こちらは牛タンの赤ワイン煮込みです。あとはサラダをお持ちしました。ローストしたかぼちゃとひよこ豆、レッドキドニー、青大豆、レンズ豆と北あかりのサラダです。ドレッシングは玉ねぎとバルサミコの自家製です」
健康そうじゃないですか!美味しそうじゃないですか!早く食べたかったのですべての料理を3皿にとりわけた。「すいません、僕がすればよかったですね」トアさん(勝手に呼ぶことにする)が申し訳なさそうに言いながら空いた皿をさげてくれた。
「いただきます」
うわっ……おいしい。 なんだかちょっと胸にくる味で、目の裏がじわじわ熱くなってしまい、焦ってビールを飲み干す。
ようやくわかった。ここの温かさや柔らかさ、これは今の私の周りにないものだ。自分の殺伐としている現状と真逆な場所なんだ……この店は。
料理はすこぶる美味しい、そして美味しい以外の味がする。スタッフもお客さんも「店」で居合わせただけではない何かを共有している。
だから私は戸惑うばかり。自然と口数も少なくなり、男前シェフを見たとき復活したように思えた鼓動もナリを潜めてしまった。
「言ってもいいですか?」
「おお、言ってみろ」
「私をここに呼んだのは、ここのイケメンをブログにあげろってことですよね。そうすれば東京以外の店を紹介した初めての回になる」
「まあ、そうだな」
「あげるのは構いません。でもマップも店の詳細もオープンにしたくありません」
高村さんはニヤリとして頬杖をついた。
「言えよ、その先」
「よくわからないけど、ここに人が押し寄せるのはよくない」
「残念30点」
くっそお……こういう時の手厳しさは有難くない。
「せめて50点にあげてみろ、西山。だからお前は今頑張れているんだぞ?それがお前だ。出来る」
くっそお……こういう優しいのは手に余る!
「ここは人に教えたくない、そういう場所だからです!」
【 カチン 】
高村さんのグラスと北川さんのグラスが触れた音が涼しく響いた。
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