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つづき
「おうおう、来た来た」
高村さんの姿を認めて全体に軽い会釈をする。
「キャ!」
「うそっ、飯塚さんだ!」
キャイキャイうるさい。理の周りは女子社員まみれだった。そこに石川と渡辺がテコでも動かないとばかりに両脇に陣取っていた。偉い、さすが理が仕込んだだけのことはある。
「御無沙汰してます」
他に思いつかず、面白くないことを言ってしまった。
「お疲れ様で~す」「こちらこそです」「御無沙汰してます」
返ってくる返事にまた会釈。早くここから出たい。
「迎えがきたから、お開きだ!これ以上武本を連れまわすのはナシ!武本と飲みたい奴は努力してアポをもぎ取るしかないぞ。武本相手にクロージングかけられる奴が何人いるか楽しみだな」
高村さんはニヤニヤ顔でそう言った。確かに「飲みに行きませんか?」と言ったところでかわされるだろう。
理は俺と家で飲むのが一番落ち着くし酒が旨く感じるといつも言う。「絶品つまみ付きだぞ」と笑いながら。
その顔を思い浮かべると、帰りにコンビニで何か買っていくか?そう聞く理に首をふる。
風呂に入っている間に何か作ればいいだけのこと。添加物にまみれたものよりも。身体に必要なものを少しだけ酒の肴にするほうがいい。
「まも……あ、飯塚だ」
ん?使い分けができないほどに酔っ払っているのか?顔は赤くも青くもない。しかし…駄目だこれは、目がとんでもないことになっている。
とんでもないこと。それは俺にしか見せない表情の片鱗が覗きはじめているということで、こんな顔を他人に晒す義理はなし!
「石川、渡辺悪かったな。武本は腰が抜ける一歩手前だ」
「え?まじっすか?そんな感じ全然なかったですよ?」
他人にわからなくても俺にはわかる。そう言ってやりたいが、そういうわけにもいかない。
俺はそのまま武本が座っている所に移動して腕を引っ張り上げた。
「帰るぞ」
「んん~~んん、帰る。ベッドにかえろ~」
おい!こら!身体のアチコチが反応しないように努めて冷静を装うのにどれだけの気力と理性がいるかわかってんのか!バカヤロ~が!
「うわ~武本さんの甘えんぼモード初めてみました!」
石川!その反応は駄目だ。俺の逆鱗に触れるつもりか?甘えんぼだと?どの口がそれを言った?その口握りつぶしてやろうか。
「しょうがないだろ、武本も気が緩んだのかもしれないな。お前らが解放しないから、こいつはずっと笑って気を使う羽目になったわけだ。
そこに愛しい飯塚が現れたのだからホッとして当然だ。なにせ飯塚と武本は同性で同棲の仲だしな。」
「高村さん!?」
「なんだよ~間違ってないだろうが」
間違ってはいない……です。
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