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つづき

「今度遊びにいっていいですか!」  は?遊びに来るだと? 「家賃節減をもくろんで飯塚さんの所に無理やり間借りしたって聞いて。俺と渡辺いつか遊びにいきます!って言ったら武本さんOKしてくれたんですよ」 「はああ?」 「いつか絶対行きますんで!」  武本が俺にしがみついている状況を誰も不思議に思っていないことに驚愕する。 同性が同棲で、武本は俺に抱きついて……これで何も思わないのか?  遊びに行きた~いというヤイヤイ煩い複数の声に顔をしかめながら輪の外に立つ高村さんを見る。可笑しそうに、それは面白そうに親指をビっとあげた。そのあとにスマホをフルフルふって悪戯っぽく目を大きく見開いたおどけた顔。ずり落ちそうな理を片腕で抱えながらスマホを確認するとメールを受信していた。 <お前らの同棲は「同居」として公になった。同棲は言葉のアヤだと受け取ってるし「同居or間借り」を誰も疑っていない。俺が散々日々周知した結果だ。理想のルームシェアとしてお前らは羨望のマト。 この仕込みは俺の餞別がわりだ、これからも頑張ろうな、次のステージだ!>  くそっ、相変わらずのキレキレオッサンかよ。 「じゃあ」とか「またな」を繰り返し、理を抱えたまま店を後にする。帰り道には反対車線になるが、タクシーに乗ってしまおう。理を押しこみ座ってようやくホっとした。 「悪かったな」  横をみればシャンとした理がいた。 「はあ?」 「家帰ったら乾杯しよう。晴れてリーマンおさらば記念だ。フワフワのオムレツが食べたい」 「お前酔っ払っていたんじゃないのか?」 「あ~芝居。充さんにもう勘弁してくれって頼んだ。まさか衛を呼ぶとはね。でも結果オーライだ。衛の顔見た時は、ちょっと緩んじゃったけど。 俺達の仲良しぶりを見せつけたのは自己満足。指輪の「彼女」がいると思い込んでいるから、衛にベタベタしたって誰も疑ってないよ」  俺は頭を抱えた。理の行く末はあのキレキレのオッサンか? 「衛、まもりってば」 「なんだよ」 「俺さ、お前の送別会でお疲れさんって言えなくて」 「ああ。それは俺が潰れたからだろ」 「だから、家に帰ってお互い頑張ったなって乾杯しようぜ」  リビングのソファのように理の手が伸びてきて俺の右手に繋がる。 「衛と一緒の家でよかった」  握った指に返ってくるキュっとした力。 「同性の同棲だろうが、何にせよただの単語だ。俺達の日々はそれ以上の密度がある」  パチンと手が払われて理の身体がドアの側に移動した。このタイミングで何を言っても返事は返ってこないからそのまま放っておく。 「運転手さん、そのタイルの建物です」  車を降り、タクシーが走り去ってからようやく理は口を開いた――あさっての方を見ながら。 「恥ずかしいこと他人が居る時に言わないでくれないか。俺はどうにもいたたまれない」  俺は迷わず理の手を握る。 「もう誰もいない。俺と理だけだ。オムレツだろ?」 「うん」 「キノコの生クリームとトマトソース、どっちがいい?」 「んんん……どっちも」  同意のしるしにギュウと理の手を握る。 「お疲れ会しに、早く帰ろう」 「うん……衛?」 「ん?」 「迎えにきてくれてありがと。嬉しかった」  これが外じゃなければギュウギュウに抱きしめていた。それができない場所にいる必要はない。理の手をひっぱり、足を進める。  俺達の家に、家族の居場所に向かって。

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