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november.2.2015  高村の油売り

「西山からメールが来た。ブログにUPするってさ」  中休みの時間にふらっと立ち寄った充さんがそんなことを言った。正明父と充さんとテーブルを囲んでいた女性だ。次の日も来てくれたから、店のことは気に入ってくれたらしい。 「そのブログは人気がある?」 「ああ、結構な。旨い店を紹介するありがちなグルメ行脚のブログじゃないからな。なにせイケメンがいる店を紹介する内容だ。そりゃあ女子は喰いつく」 「そこにうちが?」 「そ、SABUROが」  イケメン……衛を筆頭に男前が揃っている。トアだってなかなか格好いいし(ズレてなければモテモテだろう。残念な逸材だ)正明は文句なく可愛い。ミネの魅力に抵抗は難しい。でもそこに俺?俺は普通だと思う。これといって素敵なパーツを備えた顔ではない。優しそうな顔ってことは、ぼやけた顔なんじゃなかろうか。 「どんな形で文章が構成されているかはわからんが、あいつ次の日も来たらしいじゃないか。写真撮ってたか?」 「いえ、撮ってない……あ、外から外観は撮っていましたね。看板とかアングルに入っていたら、ここだってバレバレです。どれだけ影響があるかしりませんが、やみくもに忙しくなるのは困るなあ」 「俺の見立てでは、店の名前はださないだろう。マップもなし、店舗情報も一切なし。写真は料理のみ。外観か、何か企んでいるのかもしれんが、誰にも教えたくないって言ってたしな。それにお前らの集合写真は自分だけのものにするらしいぞ」 「集合写真?」 「北川さんが撮って、西山に送った」  やれやれ、困ったオッサン二人がちょこちょこと動き回っているだ。 「息子の顔だしはナシだって何回も釘をさしていたから、チビッコの顔はでないはずだ。それに上げるならそれぞれに了承を取るように言ったからな。何か言われたか?西山に」 「いえ、特になにも。トアと少し話していましたけど。でもあれはトアがいつものように一方的にまくしたてていた感じでしたよ」 「西山のブログはすべて東京の店だ。それが今回はじめて都内から脱出。札幌の人間でここに来たことのある客なら外観だけでわかるだろうな。そして誰かがコメントする。『ここ知ってます!私も大好きなお店なんですよ!』 そしてコメント欄が盛り上がる。ペロっと店名をだしちゃう人間もいるかもしれないな~ 『今度札幌行くので、そのとき絶対行きます!』とかさ、広がっていくかもしんれないな~ 飯塚の周りに女がゴロゴロしちゃうかもしれないな~」 「充さん、なにバカなこと言ってんですか。ここで暇つぶしするぐらいなら、会社戻ってくださいよ。俺から引きついだ案件、ちゃんとやってくれてます?」 「おう、ばっちりよ。渡辺と石川がヒイヒイ言いながら必死にこなしているぞ。さすが武本が教え込んだだけのことはある。あいつら打たれ強いし諦めない。 来期統合になっても、俺の筋書き通りの3羽烏で営業を引っ張るだろうさ。胡坐かいてるオッサンどもを是非ギャフンと言わせてほしいものだ」  渡辺と石川のヒイヒイ姿が目に浮かぶ。それにしても他人事のように言っていますが、貴方が籍をおいている会社ですよ?と言ってやりたい。  でも俺には関係のない世界だ。あとは石川達の頑張りに期待することと、充さんが固定給貰えることでOKとしなくては。 「そのサイトおしえてくれますか?俺もチェックして反響度合をみたいので。来客に変動あれば対応しなくちゃいけないし。 あ、あとあれです。そこの一番ドアに近い場所。あそこ潰したらどうかって皆に言おうと思ってます」 「ああ、冬の時期、人の出入りがあるたびに寒風が入ってくるしな。つい立あるっていっても背中にトイレ背負ってるし。でもテーブル潰すってことは、あそこの6客×回転数×営業日数だぞ。それをむざむざ捨てるのはいただけない。その対応策はあるのか? あ~愚問だな。お前が「失念していました!そうですよね充さん。うっかりしてました~」なんて言うわけがない。ま、皆で話し合って決めればいいじゃないか。俺は売上に影響しなけりゃ何でもいい」  前から気になっていた場所を少し変えたいなと思っていた。もちろん対応策もプレゼンできますよ、当たり前じゃないですか。たぶん皆も納得してくれると思うし、今日は油売ってる充さんに邪魔されたから、明日の中休みに話してみよう。

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