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つづき
「そうだ、実巳君。『delicious』にあがってた所在地不明の店、あれここでしょ?」
「ええ!すずさんも、あの読者ですか?」
「いや違う。イケメンは見るに嬉しい素材だけど、東京まで見にいくほど暇じゃないし。
うちに帰れば一匹それ相当なのがいるし」
「うわ、堂々と!」
「たまには惚気させてよ。
会社の若い子たちが騒いでいたから見てみたの。確かにここだったよ。
嗅ぎつけられた感じがして少しガッカリ。わりと好意的だったし、書いた人が教えたくない気マンマンだったでしょ?それにトア君が素敵に写ってたから、しょうがないかって思うことにしたけど。やっぱりいい場所は皆好きなのね」
いい場所か。そっか~そう言ってもらえると嬉しい。オヤジの代から変わらないのは俺にとって大事だ。
「極端に客数が増えているわけじゃないですよ。上昇傾向にありますけど。あとトアが歩く映画雑誌みたいになってます」
「ああ~。おすすめのフランス映画がなんだかこんだかって、あったわね。へえ、そんなことになっているのね。トア君頑張りどころじゃない」
「おすすめを聞かれて答えるってだけなんですけど。聞いたお客さんちゃんと見てるのかなって、トアの心配はそこだったりする。今のところ「見ました!」っていう反応はなしです」
「あららら」
「でもハルがちゃんと、トアにつきあってDVD見まくってますからね。そのうちトアの代理ができそうですよ。ハルのミニトア化!」
「トア君ってそんなに映画に詳しいの?」
「ですよ~」
「ジャンル問わず?」
「ん~微妙ですね。新しいのより古いのが得意みたいです。ついでに恋愛ものは苦手っぽい。俺がこないだ借りたのが「エターナルサンシャイン」って恋愛映画で」
「どうだったの?」
「う~ん、ヘンテコリン。何か俺わかんなくなっちゃって二回みたら、最初と全然違って見えた。物語のループというか、映画が終わっているけど終わってなくて、なんだか二人の関係みたいでね。消えちゃってるのに消えてない、でも消えていく。もう一度みたらまたループにのみこまれるっていうか……。
トアらしいなって思っちゃいましたよ。こういうのだったら恋愛映画もありかなって」
「へええ……ほう」
「ほう?」
「ふふん、内緒。それじゃ数が決まったら電話するね、お弁当」
「すずさん、「ほう」の次は?」
「ほうの次?「ほうほう……ほおお~~」かな?」
いつものようにとびきりの笑顔を残してスッと振り返ってヒールの音がコツコツ響く。
理はようやく顔をあげてすずさんに会釈した。すずさんはいつものように手をふって出ていく。
ほおお?何がほおお? 皆さんわかる?俺わかんない。まさか!すずさんも魔道士なのか!そうなのか!
「ミネ~、ちょっとこれ見て」
サトルに呼ばれて俺は「ほう」の追求を中断した。すずさんが無駄に「ほう」なんて言うもんか。あれは「企み」の音だ!間違いない!
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