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つづき

「こんにちは~こんな時間にごめんなさいね」 中休みの時間帯に入ってきたのは常連さんのすずさん。明るくてさっぱり、きっぱりの女性。スーツを颯爽と着こなし、高いヒールのコツコツいう音が気持ちいい(ア イスバーンでもヒールで歩ける女の人は凄すぎます。僕には一生無理です) 「実巳君、21日に会議が決まったわ。お弁当をお願い」 「どのお弁当にするか決まってます?」 「私だったらパニーニ!なんだけど、オッサン連中にはダメよね。ええっと……ん?」 「ん?」 「実巳君、それなに?」 すずさんが指さしたのはカウンターの上にある試作品。 「クリスマスのオードブル以外に一人用と二人用があってもいいかなって、その試作品」 すずさんはカウンターに駆け寄りじっと眺めています。それはそうだよね、美味しそうだし。でも会議で食べるにしては浮かれ気分過ぎやしませんかね。 「予約するわ。二人分が1つ、一人用が4つ」 「ええ?」 「24日は平日の木曜日でしょう?年末年始の前倒しで忙しいし、私も帰ってから何か作る気になれない。それに章吾も何時に帰ってくるかわからないしね。おまけに部下は全員独り者。どこかゴハンに連れて行かなくちゃなんて思っていたけど、予約してまでってほど気持ちもないし。 どうしたもんかと考えてたら、こんな素敵なものが!さすが実巳君」 値段も聞かずに予約ですか。 「これならアイツらに恩を売って、私もクリスマスを楽チンに過ごせるじゃない」 会議用のお弁当発注とクリスマスの予約をしてすずさんは笑顔で店を後にしました。 「正明、でかした。もう売れたよ!さっそくPOP作る」 理さんはノートパソコンを抱えて嬉しそう。 「ミネさん。これ予約していいですか?一人用をひとつ」 「いいけど、ハル一人なのかクリスマス」 「そうで~~す」 僕はここで働くようになってから、大学の友達とあまり遊ばなくなった。行き付けの店でその場限りの出会いを楽しむこともしなくなった。誰よりも、どこよりもここで過ごすほうが断然楽しいから。 「よし!じゃあ24日は俺んちでクリスマスしよう」 ミネさんがいきなりそんなことを言った。ミネさんに彼女がいないのは察しておりましたが、本当にいないようです。 「俺クリスマスしたことないからさ、ハル一緒にしてくんない?」 したことがない?どういうこと? 「だめ?」 「いえ……いいですよ。お邪魔します」 ミネさんは本当に嬉しそうに笑った。 今年のクリスマスは楽しそうな予感です(ミネベーダーに変身していないか心配ですが)

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