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つづき
「『サンドイッチの年』というのはどうでしょうか。主人公の少年の両親はナチスに連れていかれてしまい、一人パリに戻ってきます。終戦直後の設定ですね。頼ろうとした親戚もみつからない、自分が住んでいた家には他人が住んでいる。そんな状況で一人の少年に出逢います。意気投合し、親友という存在を得た彼は偶然通りがかった古物商の働き手募集の張り紙をみて、雇ってもらう。そこの店主は偏屈だけど心優しいおじさんなんですよね。屋根裏部屋に住まわせてもらい、周囲の人達や親友、そして店主のマックスと心を通わせて生きていきます。
しかし何事もうまくいき、それが続くことはない。とあるアクシデントで親友とのつきあいを相手の親に禁止され、少年は打ちひしがれます。
そんな少年をマックスが慰める。「サンドイッチがあるだろう?薄いハムしか挟まっていない時もある。たくさん色々なものが挟まっている時もある。人生はサンドイッチみたいなものだよ。美味しかったり、不味かったり、辛子がききすぎて涙がでたり。でもそれは全部食べきらなくてはならない。それがお前の血となり肉となる。
噛めば噛むほど味がでる、ちょうど今がサンドイッチの年なんだ」ということを言うのです。セリフは定かじゃありませんが。だいたいこんなことを静かに少年に言うシーンにぐっときます。
感動巨編とは違う、本当に素朴で心に深く深く沁みこんでくる映画です」
あ……また喋りすぎたようです。
「サンドイッチの年、フランス映画。ええといつごろの作品かわかりますか?」
「たぶん80年代ですね。90年代ではないと思います」
「トア君ありがとう。これ以上引き留めたら実巳君に怒られちゃうから。また質問しちゃうかもしれないけど、とりあえず持ち場に戻ってね。本当にありがとう」
「いいえ、こちらこそ、お役に立ちましたか?」
「役に立ったどころではありません、本当にありがとうございました!」
ピーコックさんが立ち上がって頭を下げるものだから、店内中の注目をあびてしまって、変な汗がでました。お辞儀もそこそこにレジ脇に退避。いったいなんだったんだろう。
ハルさんがピョコンとやってきて肘でグイグイ突きます。
「トアさん、手を握られていましたね~」
「そういう色っぽいものじゃないですね。なんでしょう、あれは仕事っぽいですよ」
「トア?すずさん何か言ってた?」
「珍しくすずさんに映画の質問をされまして、どうやらお連れ様も興味深々な模様でした。でもなんでしょうね、真剣具合からいうと、ちょっとおすすめ映画教えてくれる?といった感じじゃないのです。
なんだったんでしょうね?」
ミネさんはすずさんの座るテーブルを見るためにカウンターに乗り出すように前のめりになった。
ミネさんの視線の先にはすずさんとピーコックさんが何やら密談の姿勢。楽しいお食事会で会話が弾んでいますという雰囲気ではありません。
「トア、あれはたぶん、ちょっと前にすずさんが言っていた「ほうほう」の正体だ」
「ほうほう?」
「ほうほうの正体はわからない。だがあれは企み中の相談に間違いない。
たぶん、この先トアの身に何か起こるはずだ。背中に気を付けて通勤するように」
「なに怖い事言ってるんですか!」
「相手はすずさんだぞ?ハル父とおじさん並に上級ウィザードだ」
東さんといいましたね、ピーコックさん。西山さんといい、北川さんといい、東西南北の人には注意したほうがいいのかも。
『一体この先なにが待ち受けているのか!トアの身になにが!』→つづく
こんな予告編が頭に浮かびました……。ほうほう怖い!
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