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つづき

「いつの間にそんな事に?」 「俺たちの知らぬ間に」 「どこから沸いて出た話ですか?」 「局のディレクターやっている人間がスポンサーに無茶振りされたのが発端。スポンサーさんは地元のレンタルショップ」 「地元の?『レンタe-zo』のことですか?」 「そそ。新作は回転するが、準新作になる頃にはダブつきはじめる。どんどん新譜がリリースされ在庫も回転していく。そして古きよき作品や名作はお払い箱になるか、ホコリをかぶって棚の隙間を埋めている。 そして社長さんは、この現状を憂いている。 自称『レンタル界の名画座』だからな。品揃えは豊富だが、新作が10本以上棚に並ぶ大手とは回転率が違うだろうし、コアなファンがいても大きく売り上げを伸ばすとなると、思い切った手が必要だろう」 「昔の作品をレンタルされるような企画。そういう番組を作れっていう無茶振りですか?」 「さすが武本。そのとおり」  武本はなるほどという顔をしつつ、頭を回転させているようだ。温泉に行ったらしいし多少色ボケしているかもしれないと心配したが、武本には関係のないことだったらしい。  これを好機とみて店の露出を増やす。俺の目的はそれだけだし、シンプルであるほうが目標や目的はゴールに近づく。 「で、トアの存在が目に留まったということですね?」 「ディレクターの友人が、ここの常連らしい。それでミツを見初めたってことだな。俺が思うに、放映される枠は土曜や日曜の午前中ローカル枠の15分、長くても30分程度のものだろう。1コーナーとして毎週確保されるのか方向性はまだはわからん。 よくあるスタジオのセットにミツが座って、ひたすら映画のことを話す。想像できるだろう?」 「……ええ、チャンネル変えられそうです。それにSABUROのメリットにならない」 「そのとおり、やはりここは何としてもこの店を番組で露出させたい」  武本は腕を組んで考え始めた。西山のブログには店の具体的な情報がないが、確実に客数に反映されている。口コミの力は偉大だ。受け入れるこちら側は足りなかったスタッフがちゃんと完備され、サービスの質もあがった。  SABUROには料理を食べて満腹になるという目的以外のものが存在しているように思える。客が必要とする何かが補われる、そんな不思議な空間になりつつあるからこそ地元での認知を確実なものにしたい。  電波の力はデカイから、ここは気合を入れてこちら側が有利になるような提案をしなければならない。それができるのは俺と武本であり、それが俺たちの役割でもある。 「正式なオファーは?」 「まだないが、石田さんが連絡してくるくらいだ。そんなに待つことはないだろう。番変は3月末から4月の頭のタイミングだろうし、この時点で何も決まっていないほうが有り得ない。 たぶんローカル枠の番組自体は決まっている。内容や方向性は練っている最中なはずだ。そこに組み入れる1コーナーになるだろうから、注目されないとなればあっさり見限られる」 「それはそうでしょうね。でもトアのマシンガントークとマニアックさが片手間に見ている視聴者に響くとは思えない。そこ、どうしたもんでしょうね」 「そ、そこがキモ」 「今すぐにどうしたらいいかという案は浮かびません。少し考えてみます」 「もちろん、俺だってそのつもりだ。まだ何も決まっていないし、先方からのオファーもない。はっきりするまでこの話は黙っていよう」 「そうしてください。テレビのことを以前ミネに言ったことがありますが、しばらくおかしかったですからね。 トアにバレたら、業務にさしつかえると思うので、黙っているほうがいいですよ」  ミツの口から「僕の職場「SABURO」をよろしく!」なんて言わせたら、番宣にきた芸能人みたいになる。彼らはタレントや俳優だからその資格はあるが、ミツは一般人だし映画評論家でもない。  店の制服で登場したら「なぜ、この格好?」視聴者はキョトンだろう。疑問は消極性を生む引き金になりかねない。  ミツ、SABURO、、番組。どこをどうやってリンクさせるか。頭を悩ませることに違いはないが、こういうのは正直ワクワクする。それに血が騒ぐ。  武本の提案を待って最善の策を練る事にしよう。これだから企みってやつはやめられない!

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