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つづき

「なんかさ~正月もだけど、一人でぼ~としていて怖いなんてなかったわけ、今まで。でもこれって、たぶん今の自分の環境がとてもいい状態で、飯塚もサトルもハルもトアも俺には必要な人になっちゃったんだよ。一人は快適だけど、それ以上に楽しいとか嬉しいっていうことを知っちゃったんだろうな。それに気がついて、それも怖くなったり。 何歳になっても自分のことを自分が一番理解できないってのマジ困る」 「わかるよ。必要なものが出来る度に怖くなる。でも、だからこそ手放さないように、無くしてしまわないように努力できるってことなのかもしれないな」 「俺、そういうの恋愛だけに発生すると思ってたよ。てか、俺の場合そんな怖くなるくらい誰かを好きになったことないけどね。 今年はどうなるかわからないけど、俺は足掻いちゃうよ?去年よりSABUROを綺麗にしちゃうもんね」 「綺麗?」 「そ、キラキラしてるってこと。キラキラは気持ちがいいだろ?トアがエンタメ話しているときのキラキラだって、それなりに威力がある」  今度は俺が噴きだす番だった。 「村崎のニヤって笑う顔だってキラキラ……じゃないか。癖になるっていうのが理の意見だ」 「そりゃどうも」  村崎はう~~んと腕を伸ばした後、マグの中身を飲み干し空にした。朝イチで見た時よりずっとゆったりした顔に戻っていて安心した。誰だって自問自答して答えがでるまえに怖くなることは沢山ある。そんな時に一人でいる必要はない。 「村崎」 「んん~?」 「来年の初日、一人で抜け駆けはなしだ。正月休みの一日はうちに遊びに来い。こないなら押しかけることにする。今から約束だ」  村崎はマグカップをシンクにコトンと置いて蛇口をひねる。シャーという水の音、コボコボとマグに溜まっていく水音。 「だな~今年がどうなっていて、来年の正月に何が待ち受けているかわからんけど。一人でぼ~とするのは懲りたよ。無言で朝っぱらから一人で仕込みは楽しくない。ありがとな、飯塚」 「なんだよ、気持ち悪いな」 「水筒にビシソワーズ作って持って行った高校生の俺、でかしたってことだな。俺、独りじゃなくてマジでよかった」  そう言って笑った村崎の笑顔は、いつものヒネた表情とはまったく別のものだった。穏やかであり、優しくもある。そしてキラキラしていた。  そんな顔ができるなら、今年一年は安泰だ。それを言葉にしようとしたがやめた。水筒を押し付けた高校生の村崎を思い出せば、俺の顔も自然と笑顔になる。  笑顔には笑顔。  さあ、仕込みの続きをはじめよう。まもなく皆がやってくる。誰かのキラキラの為に特別の場所をつくりあげよう。  SABUROの仲間全員で、キラキラの場所に。  大丈夫だよ村崎。俺達もSABUROも大丈夫。ここは去年よりずっとキラキラ輝く、絶対に。

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