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<これにて終幕> 男前とヤサ男

 電話が鳴ってから、40分後。俺は心底呆れてはてている。この展開はナニ? 「武本に合わせるよ。じゃ、明日仕事だろ?俺帰るな」 「はあ?ちょっと何だよ、お前」 「地下鉄なくなるし、曜日はお前が決めてくれ」  慌てたように立ち上がった飯塚を見上げる。どうしてこうヘタレなんだよ、お前は! 少し笑えるぐらいに情けない。そんな俺の顔をみて飯塚は何も言わずにスタスタ玄関にむかい靴を履きだした。  マジで帰るわけ ?……ったく。 帰る気マンマンで靴を履いている飯塚に言ってやった。 「お前のわけのわからん姿を初めて見るから、今日のところは許してやる。 でも後回しにしていいことないからな、それだけ覚えておけ」  のってこいよ飯塚、助け舟をだしてやったんだからな! 「……ちゃんと鍵かけろよ」  いつもの何一つ変わらない帰る時のセリフを残して、飯塚はあっさり出て行った。あああ~~あ、どうすんだよ。この中途半端さをどう始末しろってんだ。  去年、落ち込みから抜け出すことができたのは正明のクランキーチョコがきっかけだった。そして今日、あの時の4倍のクランキーが俺の所にある。  男前はヘタレを遺憾なく発揮し、使い物にならない。この場を締めるのは俺か……コンニャロめ。  仕方がない。裸足のまま三和土に降りた。冷たい!よりによって1年で一番寒い2月に裸足でコンクリなんて!全部飯塚のせいだ! 20、19、18  心の中でカウントダウンを始める。 10、9、8  鍵をカチってしないと、あの男は帰らないはずだ。 3、2、1 「おい!鍵ちゃんとかけろって言っただろうが!」  思った通りにドアが開いた。どうしてこういうことは強気な俺様仕様で言えるのに、肝心なことが言えないんだ、お前は。  てっきり部屋に戻っていると思っていたのだろう。張り上げた声の相手がおもいっきり近くに立っていたから男前がぎょっとする。お前のそんな顔、初めて見たよ。  飯塚のマフラーをひっぱって三和土に呼び込むとバランスを崩した。よろけたせいでドアノブから手が離れドアがカチャっと閉まった。 「裸足はつめて~~んだよ!」   飯塚の靴の上に乗っかって、俺はそっと唇を重ねた。不安定な足場なので、ヒョイっと廊下に戻る。  飯塚は何もいわずに、立ち尽くしていた。まさか本当に遊ぶ時間を増やしたかったってオチだったらどうしましょうか。  不安になるくらいの長い沈黙。 「俺の行動、間違いだったか?」  飯塚ははっとしたように俺の顔を見たあと盛大に赤くなり、こともあろうに指先で唇に触れた。うわ!やめてくれ、なんだその反応は!いきなり猛烈に恥ずかしいぞ! 「……間違って……ない」  包丁渡した時と同じだ、間違いない、まもなくコイツ泣き出す。それこそ勘弁してくれ、恥ずかしいが10乗くらいになりそうだ! 「お前言ったよな、好きな相手ができたら意地でも口説くとかなんとか。それに間違いじゃないって言ったよな?今」  こくこく頷く(子供かっ!)  正明がかわいいとコイツのことを言う意味が少しわかったかもしれない。男前がヘタレになると、カワイイに変身するらしい。 「んじゃ、意地になってくれないと困るじゃないか。あがれよ、ビール飲もうぜ。もう一回最初からやりなおし!後回しはナシ!わかった?」  むんずと手をつかんで部屋に歩き出す。部屋のドアをあけて振り返ると、飯塚は笑みを浮かべて俺をひきよせた。飯塚の肩にアゴがのる。 「……ありがとう」 「お前ヘタレすぎ……だろ」 「武本、お前ほんと男前だな、惚れ直した」 「最初から言えってんだ、この男前」 「武本が好きなんだ……お前も同じ気持ちだと……思ってもいいか?」  そっと飯塚に腕をまわす。背中ごしではない初めて向かい合う暖かさ。もうこれでホントにほんと、大丈夫。 「前に言っただろ?俺はお前の横をずっと一緒に歩いていくよ」  横並びで歩く俺達のスタートが、ようやく始まった。   fin
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