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第1話

十一月になると、早い部署では忘年会の話題が出始める。  年末は忙しいから、前倒しで行うという最近の風習はいいのか悪いのかと思いながらも、 服部圭は社内メールで回って来た忘年会の出欠席表に返信を打つ手を止めた。  今回の忘年会は、自分の所属する経理だけではなく、営業と合同のものだ。 ――あいつは来るのかな。  浮かんだ顔は、週に一度顔を合わせるかどうか分からない、営業部の鶴巻一茂。自分よりも二歳年下の男だ。  入社二年目だけれど自信たっぷりな性格が現れている整った顔のせいか、顧客の覚えも良くて成績は上々で、上司からも期待されているらしい。  歳は下だけれど、就職浪人をしていた自分とは同期という間柄で、新人研修の時に同じ部屋に泊って以来、なぜだか変に懐かれている。  生真面目で無愛想。おまけに無口。  経理なんてやっている事もあって、社内でのあだ名はアンドロイドなんて言われていることも分かっている。  なのに、鶴巻はこんな自分を昼食に誘ってきたり、用もないのに話かけてきたりする。  その度に、顔の良い男は何を考えているか良く分からないと思ってしまう。  きっと、自分と違って面白いと思っているだけなんだろう。  新しいおもちゃがつまらないと感じれば、そのうち離れて行く。  そう静観して、早一年。  相変わらず、鶴巻は出会った時と変わらない眩しい笑顔を向けて話しかけてくる。 「あ、いたいた、服部さーん! 食堂にいないから探しちゃったよ!」 「……何?」 「そんな嫌そうな顔しないでよ、へこむなあ」 「月始めの忙しい時期に、よく元気でいられるなと思っただけだ」 「そう? 月始めだからこそ元気じゃなきゃおかしくないですか?」  首を傾げる鶴巻に、小さく溜息をつく。 「それはお前が若いからだろう……」 「って、服部さんだって二歳しか違わないじゃないっすか。俺よりも若く見えるし、要は気持ちの問題だと思うけど」 「……っ、とにかく! 何の用だ?」  図星を指されて気まずくなり、さっさと話を切り上げようとすると、鶴巻は思い出したとでも言う様に、ポンっと手を叩く。 「そうそう! 服部さん、忘年会の出欠席のメール返した?」 「あー……まあ」  チラリとモニタにうっかり視線を向けてしまい、敏い鶴巻はモニタを覗きこむ。 「あっ! 欠席にチェック付けようとしたでしょ! 出ようよ、はい決定!」 「ちょっ……おい、鶴巻!?」  声をかけた時にはすでに遅く、鶴巻は勝手にマウスを操作すると、出席のボタンにチェックをつけて送信をクリックしてしまった。 「じゃあ、俺はこれで! 忘年会、楽しみに営業頑張ってきまーす!」  口を開く間もなく、あっと言う間に鶴巻は去って行ってしまった。 「……何だったんだ、一体」  呆れて呟くと、一部始終を見ていた周りからは小さな笑い声が聞こえてくる。 「お騒がせしてすみません……」  羞恥に肩を縮めながら、同僚たちに頭を下げた。いくら昼休みとはいえ、大声を上げてしまった事は申し訳ない。 「服部さんと鶴巻くんって、本当に仲が良いよね」 「なんか兄弟みたい」 「兄弟……ですか」  例えだと分かっていても、性格の真逆な鶴巻と兄弟と言われる事が不思議でつい返してしまう。 「うん、お兄ちゃんを慕ってる弟って感じ」 「いいよねー、あんなイケメンな弟だったら慕われたーい」  ぼやく女性社員に苦笑いを返しながら、内心はドキリとする。 ――良かった、逆に見られていて。  自分の気持ちが周りに駄々漏れなのかと、冷や汗が出そうだった。  初めて会った時から、自分にないものを備えている鶴巻に恋をしている。  けれど、叶う筈のない恋だと分かっているから、高望はしない。  ノンケの男に恋をすることがどれだけ不毛なことなのか、鶴巻は痛い程知っているからだ。  こうしてたまに同期のよしみで構いに来てくれるだけで十分、そう思っていたのに――

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