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第2話

(――どうしよう)  これがチャンスなのかピンチなのか、酒が入っているせいで全く考えがまとまらない。 「……これも、部長のせいだ」  イベント事の大好きな、能天気な上司の顔を頭に思い浮かべ、恨み事を呟く。  合同忘年会は想像以上に盛り上がり、途中で抜け出そうと思っていたのに、中々タイミングが取れず、気付けば終電を逃してしまった。 「服部さん、俺ん家来ます?」  酔っているせいなのか蕩けた笑顔で誘われて、うっかり頷いてしまった。  夢うつつで一緒にタクシーに乗り、部屋に通されてシャワーを借りて……  やっと酔いが醒め、事の重大さに頭を抱えている現状。 「数十分前の俺の馬鹿……っ」  片思いの相手の部屋に来るなんて、どうかしている。  借りた寝間着替わりのシャツの大きさに、年甲斐もなくときめいている場合ではなかった。髪の毛をぐしゃぐしゃと混ぜていると、ドアが大きく開く。 「服部さん、おまたせー……って、何してんの?」 「あ、いや……髪の毛を乾かそうと……」 「ははっ、タオルもないのに? だいぶ酔ってるみたいだから、早く寝た方が良さそう。それにしても……」  鶴巻そこで言葉を区切り、あけすけに服部を上から下まで眺める。 「な、何だ?」  どこかおかしな場所でもあるのだろうかと慌てると、クスッと笑われてしまった。 「いや、貸したシャツ、ちょっと大きかったっすね」 「ああ、まあ……体格が違うしな」  どこか甘さを含んでいるような視線に耐えきれず、フイッと視線を逸らすと鶴巻は笑いながら手招きをする。 「何?」 「ベッドこっちだから」  ガラッと引き戸が開かれ、セミダブルのベッドが現れる。 「いいい、いや、俺はソファー貸してもらえれば……」 「何言ってるの! 服部さんをソファーでなんか寝かせられないって!」 「うわっ……」  強引に腕を引かれ、ソファーから引き剥がされる様に立たされると、そのままベッドまで連れて行かれてしまった。 「鶴巻! 本当に俺はソファーの方で……」 「駄目、ほらベッド入って入って」  追い立てられるようにベッドへ入れられてしまい、丁寧に布団までかけられてしまう。 「それじゃ、お休みなさい」  そのまま出て行こうとした鶴巻の腕を、咄嗟に掴む。 「あの……さ、お前はどこで寝るの?」 「俺はソファーで……」 「ここはお前の家だろ? やっぱりお前がベッドで寝るべきだって」 「んー……じゃあ、一緒に寝ましょう。そうすれば、お互い遠慮しなくて済みますよね」 「え……?」  にこっと笑われ、ベッドに鶴巻が乗りあがる。急接近した鶴巻の体温と、触れる息にのぼせて目眩すら起こしそうだ。  そんな気持ちも知らず、電気が消された寝室に穏やかな鶴巻の声が聞こえる。 「おやすみなさい、服部さん」 「お、おや……すみ……」  胸の辺りで両手を組んで祈るような格好をして、緊張して掠れた声で挨拶を返す。  鶴巻の方からは何の返事も聞こえなくて、身体の向きを変える衣擦れの音が聞こえた。チラリと横目で見ると、大きな背中が見える。  その後、静かな寝息が聞こえてきたけれど、服部はそのままの体勢で身動きが出来なくなってしまった。  すぐ隣に鶴巻が寝ている。  それは嬉しくて、すこし辛い。  鶴巻は寝ているんだし、すこしくらい触れても分からないと思いつつも、手を伸ばして触れる度胸はない。  憶病すぎる自分が情けない。  カチカチと鳴る目覚まし時計の音が、自分の心臓の音とシンクロして耳に痛かったけれど、次第に気持ちが落ち着いてくるから不思議だ。  この時計が朝を告げるベルを鳴らすまで、鶴巻が近くにいる。 ――それで十分じゃないか。  これ以上はきっと望んではいけない。  寝る時間が勿体無いと思いながらも、鶴巻の寝顔を見れた事に幸せを感じながら、そっと目を閉じた。

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