（――どうしよう） 　酒の勢いで想い人を家に誘ってしまった。 　入社当初から好きだった相手。 　生真面目な服部には男同志の恋愛なんて非常識な事は、きっと受け入れてもらえない。 　だから想いは心の奥に閉まったまま、仲の良い後輩のポジションに入ろうと決めた。 　はじめは怪訝な表情をしていた服部が少しずつ表情を和らげてくれ、いわゆるパーソナルスペースと呼ばれる距離にいても、気にしなくなってくれた。 　そこまで気を許してくれる間柄にはなったものの、飲みに誘っても付き合ってくれるのは五回に一度程。 　いつかお持ち帰りしたいと夢には見ていたが、まさかこんなラッキーが偶然とはいえ起こるとは、神様からの少し早いクリスマスプレゼントとしか思えない。 　ソファーで寝るという鶴巻を強引にベッドに寝かせることに成功はしたものの、その先のことを全く考えていなかった。 　とてもじゃないけれど、顔など見たら理性をふっ飛ばして襲いかねないので、背中を向けた。 　数センチ背後に感じる、服部の体温。 （これは……ラッキーどころかアンラッキーだ……生殺しじゃん） 　触れたい相手が間近にいるのに、触る事すらできない。 　暴走しないようにシャワーで頭を冷やしてきたのに、だんだんと心臓の音は大きく高鳴っていく。 　落ち着けと心の中で何度も呪文を唱えながら、聞こえてくる目覚まし時計のカチカチという音がやけに耳に鳴り響く。 　暗い部屋の中でもうっすらと秒針が見えるので、それをジッと見つめて過ごしたが、体感するよりも時間が全く経ってくれず、頭を掻きむしりたくなる。 　自分はこんなに堪え性のない男だっただろうか。 　こんなことならば二日酔いが恐ろしいが、いっそ服部を誘って朝まで飲み会をして潰れて寝てしまった方がマシだったのかもしれない。 （ソファーで寝るか……） 　その方が絶対精神的にいい気がする。 　ただ、起き上がると服部を起こしてしまう可能性があるのが問題だ。 　難問があがり、どうしたらいいかと悩んでみたけれど、仕事中の判断力は何処へ？　と自問自答したくなるくらい、案が思いつかない。 　とりあえず寝返りを打ってみて反応を見てみるのが一番手っ取り早い気がする。 　そう思った鶴巻はでかい図体を縮めこませ、息を止めてゆっくりと身体を反転した。 「……っ！？」 「え……？」 　布団に入った時は確かに目を閉じて寝ていた服部が、薄暗い部屋のなかでこちらを凝視していて、鶴巻は何度も瞬きを繰り返してしまう。 「み、見ていて悪かった！」 　暗い中でも分かるくらい動揺しきった服部の表情に、変な期待が浮かんでしまう。 　寝れなくて寝返りを打ったというのなら理解できるけれど、服部は気付かれないように見ていたのではないだろうか。 　そうでなければ、あんなに焦らないだろう。 　だったら何故、鶴巻を見ていたのか。 （もしかしたら……俺と同じなのかもしれない） 　その理由を服部に尋ねたい。 「ちょっ！　待ってください！」 　ものすごい速さで背を向けようとした服部の肩を、思い切り掴んだ。