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第4話
思い切り鶴巻に手を掴まれ、もう駄目だと思った。
暗い中でも至近距離で見る鶴巻は眉があがり、ギラついた強い瞳が服部を射抜く。
寝たふりをした後、どうしても寝付けなかった服部は、どうせ寝不足になるなら一生分の鶴巻を目に焼き付けておこうと、こっそりと彼が見えるように寝返りを打った。
これは、広い背中と呼吸をする度に盛り上がる肩の筋肉に見惚れていた罰だ。
「な、なんだ……お前も寝付けないのか? 俺と一緒だな、ははは……」
棒読みだし、情けないくらい声が震えているのが自分でも分かった。
「服部さん……ひとつ聞きたい事があるんですけど、いいですか?」
普段の鶴巻と違って、フランクな口調じゃない。真剣な表情に口の中が乾く。
「あ、明日の朝じゃだめなのか? ほら、もう遅いし早く寝ないと……」
「そんな長い話じゃないんで」
後伸ばしを却下され、退路を断たれてしまった。
鶴巻の質問は何となく分かっている。
(年貢の納め時……なのかもな)
忘年会の日にこんなことになるとは、なんともタイミングを計ったようで、笑う状況でもないのに笑いたくなってきた。
「あの……もし、違ったら謝るんですけど。今、俺のこと見てませんでしたか……?」
気持ち悪いと罵られるの思ったのに、鶴巻はずいぶんと遠回しに訪ねてきた。
この辺りが彼の優しい部分なのだと思う。
そして、誰にでも分け隔てなく優しい性分にどうしようもなく惹かれたのだ。
けれど、この優しさを感じるのもきっと今日で最後になるのだろう。そう思うと心臓が締め付けられたが、隠すという選択肢はもう服部の心の中にはなかった。
身体を起こすとベッドの上に座り直し、きっちりと背筋を伸ばした。
「……見てた」
「やっぱり! あの、俺……」
「お前の背中を見て……欲情してた」
何か言おうとした鶴巻の言葉を遮るようにして、胸の内を告げる。
鶴巻の目が大きく見開き、二の句が告げないと顔が物語っていた。
(ほら、やっぱり……)
予想通りの結末だ。
「お前とどうこうなりたいとは思ってないから、今の言葉は忘れてくれ。それと、自分勝手で悪いが会社であっても普段通りにしてくれたら助かる」
「……ほんと、自分勝手ですよ!」
「っ!」
大声に驚いた瞬間、大きな身体が体当たりしてきて、ベッドへと沈められる。
「つ、鶴巻!? お前、俺の話を聞いてたのか? 俺は男に欲情する……」
「それがなんだって言うんですか! 俺だってバイですっ!」
「え……?」
突然のカミングアウトに目を見開く。
「……もっと告白すると、服部さんを今日誘ったのも下心込みでしたよ?」
都合の良い夢を見ているのではないかと、緩くあがった鶴巻の口元を呆然と眺めていると、だんだんと顔が近寄ってくる。
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