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第1話 最後のはじまり
『街道はあぶない』
『街の周りは人がいる』
『森は静かよ』
ささやかれる声のまま、ロエルは息を切らせて走る。振り向く間もない。
街からだいぶ離れたのに、人々の叫ぶ声が空に響く。
『森の奥へ』
『もう少しさきへ』
『泉があるよ』
もう道がない。藪の中をかき分けるように走り続ける。
街の人に捕まったら、もう終わりだ。
魔女狩り、魔女裁判。それらがもう終わると風が知らせる。やっとこの地獄のような時代がひとつ終わる。そう安堵したすぐあとに、ロエルに魔女の疑いがかけられた。
思い当たるのは、それなりに身分のある女性からの求婚を断ったことぐらいだ。
そのほかでは身を潜めるように、静かに生活していた。
ここは国の中心から遠く離れ、魔女狩りが少し異変していた。裁判なんかしない。そして対象は男女関係ない。疑いをかけられたものは街の人みんなに殺される。
――ただの病気が蔓延しただけなのに。
薬草を積んで、子供を助けようとした母親。
病のもとを調べていた研究者。
ちょっと偏屈なだけの一般人。
――なんの根拠もなく、魔女だと決めつけて……ただの人殺しだ。
そう思っていても、それを声に出しただけで魔女とされてしまう恐怖。
もうそれも終わりを風が教えてくれたというのに……。
何を考えても今は、振り返らないで走るしかない。
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