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第5話 最終章 逃亡
再び森がざわめく。ロエルは手早く荷物をまとめた。いつでも動けるように。生きていたいという欲求は捨てられない。
――生きて、生き抜いて、この時代の終わりを見届けるんだ。
「ロエル、どこへ行くの?」
寝ていると思っていたリアは、すでに起きていた。
「ここを離れる。だから、ここからは別行動で」
「待って、ロエル」
腕をつかまれ引き留められた。できれば手っ取り早い話で済ませてほしいとロエルは思う。
「俺はロエルを守れないか? そばにいてはだめか?」
「マグノリア?」
「そばにいたい。ともに生きていきたい」
本当は最初会ったとき、リアは死に場所を探していたという。かなり前に最愛の人が魔女狩りで亡くしたと。
「世界に、人間に、時代に、絶望したんだよ。だけど、ロエルに会ったとき……一緒に生きたいって思えた。それって失ってはいけない存在だろう? 失いたくないんだ」
ロエル頼む、というリアは泣きそうな声をこぼした。
「だがマグノリア、二人だと危険があなたに及ぶ。僕がこの森から出られなかったのは、街からそれほど遠くないからだ。けれど先の道はすでにふさがれていた」
説得してもリアの手はほどけない。しかし時間がない。
『人が来る』
『南へ抜けて』
『森の中に入ってきた』
精霊が一斉に話し出す。やはりそうかとロエルは感じた。
「仕方ない。リア、もう時間がない。さっさと支度して」
あきらめとともに、ロエルはリアにそういった。本当は彼がマグノリアと呼ばれるのを嫌がっていたことを知っていた。
こんな風になれ合わないために、わざとそう呼んでいたのに。情は人を弱くするのか……。それでもリアの手を振る払うことはできない。
ならもういっそ、行けるところまでともに行くしかない。
「ほら、情けない顔しない。ここにいた形跡をできるだけ隠して」
「わかった」
「さてさっさと移動開始だ。南に抜けるぞ」
言い切るノエルにリアは頷いて、ついて行く。
――もっと強い人かと思っていた。意外過ぎて……。
意外過ぎて、ロエルは胸を撃ち抜かれた気分だった。
「ロエル、ありがとう」
「もういいって、しばらく黙って」
赤く染まった頬を前を向くことで、彼から隠した。
いつかリアに、ロエル自身の体質を話せたらいいなと思う。
――誰にも言えなかった秘密を。
耳の片隅で精霊が笑う声が聞こえた。彼らは色恋が大好きな子たちだから。
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