4 / 5

第4話 静寂の月夜

 静寂に満ちる月夜にロエルは耳を澄ます。  とても静かな夜、なにも聞こえない。風もない夜だった。鳥も木々のざわめきも、精霊たちの声も聞こえない。  ――何かが……?  月が真上にくる。ロエルは泉の端に座り水面を覗き込んだ。こういう静かなときほど、気を付けなくてはいけない。  些細なことでも見逃したくない。それはロエルの命にかかわってくる。 「ロエル、眠れないのかい?」  リアの声がした。足音を聞き逃すほどに、水面を覗き込んでいたことに今更ながら気づく。ため息を吐いて、リアを見上げた。 「ちがう。静かな夜だから」 「ん? 確かに静かだと思うけど、それがどうした?」 「こういう時は、警戒しておいたほうがいい」  リアの目つきが少し鋭くなる。ロエルは月を見ていてそれを見逃した。 「何を警戒するんだい? 奇襲? 暗殺?」 「いや、そうじゃない」 「ロエルは女性からの求婚を断ったから、こんなことになったんだろう? なんで結婚を断った?」  断った理由なんて考えるまでもない。 「好意を持っていなかったから。相手に」 「それだけ? それだけで街の人みんなに消されそうになったの?」 「それだけで十分なんだ。だけどもう、魔女狩りも終わりになる」  どうして、とリアは問う。 「時代の流れ、疫病の終息、医療の発達。そもそも魔女狩りなんて最初から必要なかったんだ」 「……魔女裁判によって裁かれたものの中には、魔女は存在しないと?」  それはきっと言いすぎだろう。魔女が本当に存在するのかどうかなんて、ロエルにもわからないことだ。 「マグノリア、それはもう誰も知ることはできないことだ」 「リアでいいって――しかし、ならば亡くなった者たちはいったい何のために……」 「この時代の被害者だ」

ともだちにシェアしよう!