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第4話 静寂の月夜
静寂に満ちる月夜にロエルは耳を澄ます。
とても静かな夜、なにも聞こえない。風もない夜だった。鳥も木々のざわめきも、精霊たちの声も聞こえない。
――何かが……?
月が真上にくる。ロエルは泉の端に座り水面を覗き込んだ。こういう静かなときほど、気を付けなくてはいけない。
些細なことでも見逃したくない。それはロエルの命にかかわってくる。
「ロエル、眠れないのかい?」
リアの声がした。足音を聞き逃すほどに、水面を覗き込んでいたことに今更ながら気づく。ため息を吐いて、リアを見上げた。
「ちがう。静かな夜だから」
「ん? 確かに静かだと思うけど、それがどうした?」
「こういう時は、警戒しておいたほうがいい」
リアの目つきが少し鋭くなる。ロエルは月を見ていてそれを見逃した。
「何を警戒するんだい? 奇襲? 暗殺?」
「いや、そうじゃない」
「ロエルは女性からの求婚を断ったから、こんなことになったんだろう? なんで結婚を断った?」
断った理由なんて考えるまでもない。
「好意を持っていなかったから。相手に」
「それだけ? それだけで街の人みんなに消されそうになったの?」
「それだけで十分なんだ。だけどもう、魔女狩りも終わりになる」
どうして、とリアは問う。
「時代の流れ、疫病の終息、医療の発達。そもそも魔女狩りなんて最初から必要なかったんだ」
「……魔女裁判によって裁かれたものの中には、魔女は存在しないと?」
それはきっと言いすぎだろう。魔女が本当に存在するのかどうかなんて、ロエルにもわからないことだ。
「マグノリア、それはもう誰も知ることはできないことだ」
「リアでいいって――しかし、ならば亡くなった者たちはいったい何のために……」
「この時代の被害者だ」
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