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ヘナヘナとその場に座り込みながら藻武は寺川に向かって涙声で叫ぶ。
そんな友人の様子に寺川は慌てて扉を閉めて、藻武の元へと駆け寄った。
「いやいやウルセーな!どうしたんだよ」
「あ〜ん!怖かったよ〜!」
「泣くな泣くな。なに言われたかまでは流石の俺でも聞こえなかったけど…なに言われたの?」
「おっ、思い出したくも、ない!」
「…あっそ。まあこれでよく分かっただろ。あの三人、Ωどころかαの女だって狙ってるような相手だぞ?そんなのに挑もうなんて百万年早いっつーの」
ぐずる藻武の傍で同じように腰を落として、背中をさすってやる寺川。
そんな寺川をうるうると水分量高めな瞳で見上げて、藻武はスンと鼻を啜った。
「僕…そんなに魅力ないのかなあ…」
「げっ…その捨てられた…子犬のような目は、やめろ…」
「美少年だと自負してたけど、僕なんて所詮出来損ないのΩなのかなあ…」
「はあ?んなわけないだろ!飛躍し過ぎ」
「…このままだと、一生ひとりぼっちで生きていかなきゃなんないよ…僕…やだなあ」
「………あー、あれだよ。今回は相手が悪かっただけで、お前は、その、十分整った顔してると思う」
「ほんと…?」
「それにお前浮気やだろ?あんな三人のうち誰か一人と兆が一にも付き合えたとしても一生浮気の心配してないといけない気がするよ?誘惑多そうだし、そんなのやだろ?」
「やだ…」
「じゃあ結果これで良かったんだよ。そりゃ少ないかも知んないけどαなんて他にもいるだろうし、あんま焦らずゆっくりいこうぜ。………それにさ」
珍しく寺川の言葉にコクコクと頷く藻武は誰が見ても愛らしい。頬に流れる大粒の涙はまるで宝石のようだ。
「それにもし一生お前の貰い手が見つかんなかったら、そんときは最悪俺が」
「そういえばあの人αなのかなあ?」
「………はい?」
「あの人!佳威先輩の横にいた優しそうな人!」
「…いや、知らんけど」
「あの人すっごいタイプだったんだよね!さすがにαが二人で連んでるとは思えないし多分βなんだろうなあ…βかあ…悩むところではあるけど、αと仲が良いってそれだけで将来有望じゃない?結構優良物件だよね!?」
「だから何が!?」
「決めた!今度は僕あの人にアタックしてみる!」
「なんでそうなるんだよ!ていうかいい加減俺の話を最後まで聞けよ!」
「そうと決まれば今度こそ抜かりないよう情報のチェックからだね!てっちゃん僕頑張るよ!」
「……もう好きにして…」
「あとてっちゃんのそのストーカー癖、直した方が良くない?そんなやばい趣味じゃ一生彼女できないよ?」
「お前マジで一回痛い目みたらいいのに!」
すっかり涙の引いた藻武とは反対に堪らず涙目になる寺川だったが、新しい目標にキラキラと目を輝かす友人の姿に「これはこれでいい、のか…?」と心の中でひと息ついたのだった。
end.
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