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αとΩにのみ発生する絶対的な関係の「番」ではあるが、その実、番関係は解消できる。
決定権はすべてαにあり強制的に解除された場合、番であったΩは心への過剰なストレスが与えられ精神崩壊。
心ではなく脳だとか原因には諸説あるが、いわゆる重度の鬱病だ。
そして精神を病んだ末に自殺、または体内の免疫力が下がり様々な病気を誘発。
どちらにせよ番の解消はΩにとって死期を早めることになる。
そんな恐ろしい事態になるかも知れない状況を笑う目の前の男に、藻武は得体の知れない恐ろしさを覚えた。
「……やっぱり…また今度に、しよっ、かなあ…なんて」
「えー?ウソウソ。まず噛まないし、ここまで来といてやめるなんてヤダー。いいじゃん、しよーよ。気持ちよくさせてあげるから」
「や、あの…え…ごめ」
スイッチが入ってしまったのか、両手を背中に回され逃げ道を失った藻武が泣きそうになった、その時。
「――」
突然賑やかな音楽が鳴り響いたのだ。
発信源は有紀のすぐ後ろの机。の上にある携帯だった。
「でぁっ…電話!?電話だよっ有紀くん!」
「あー、ごめんね切っとく!」
「ききき切らないで!…じゃなくて僕のことは気にせず出てください!」
「そ?」
藻武の必死なお願いに、有紀は放り投げていた携帯に手を伸ばす。
画面を確認した瞬間、スイッチがパチンと切れたのが藻武には分かった。
「リク!どしたの?…え、今?超ヒマ!」
たしか数秒前まではギラギラした目で見てくる狼だった筈なのに、今は薄茶色の耳と引き千切れんばかりに振る尻尾が見える。幻覚か、と藻武は何度も瞬きをする。
そして、超ヒマと言われたことにショックを受けるよりも、有紀の意識が電話の相手に逸れたことへの安心感の方が強かった。
「それって俺に会いたいってことだよね?リク寂しかったんだあ」
電話越しに、そう言う意味じゃないと言っている声が微かに聞こえるが、藻武の時とは有紀の声のトーンが全く違う。
甘えるような幼さと、元々間延びした柔らかい喋り方ではあったがそれにも増して柔らかく優しい。
子供のように甘えているようにも、子供を甘やかしているかのようにも捉えられるそんな喋り方。
電話の相手が余程大切な相手なのだと、有紀のことを深く知らない藻武でさえ瞬時に感じ取ることができた。
「分かったあ!すぐ行くー!3秒待ってて!……てことで、ゴメンねΩくん。俺用事できたから行くねえ?」
「うん!?…う、んうん!全然大丈夫!ありがと〜」
ぶんぶんと顔を上下に振る藻武を置いて有紀が出て行った扉から、少しして馴染みの人間が顔を覗かせた。
「………」
「えーと…そうだな。今回は特にフォローはない。あのままいけばヤれたとは思うし。あとはタイミングだよな」
「………」
「藻武?」
「……カ」
「蚊?」
「〜〜〜ってぇ…ッちゃんのバカあ!!ストーカーならストーカーらしく危ないと思ったら助けに来てよぉ!!」
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