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Thanks a lot,bro!

「フクちゃん!今度の誕生日、俺と過ごしてください!!」 突然の呼び出しに何事かと思って慌てて駆けつけてみたら、開口一番そう言われて若干引いた。 「え、やだよ‥てかナナと約束してるし」 「ひっど!!分かってたけど、ひっど!!」 10日後‥11月17日は俺の誕生日だ。幸せなことに、今年もすでに恋人との先約が入っていた。 「じゃあ聞くけど、もし俺がお前の誕生日に同じこと言ったらオッケーする?なっちゃんと約束あるのに」 「100パーしない。なっちゃんとの約束、ゼッタイ」 真顔でそう言われると結構腹立つもんだな。いや、それはお互い様なんだけど。‥だけど急に何だろう。 そう思ったのが顔に出ていたのか、優介はニッと笑って俺の顔を覗き込んできた。 「誕生日にイッチーと約束してるのは予想済み。だからさ、前日に久々に出かけない?二人で」 「二人で?」 「そ。俺たち知り合って4年目じゃん?俺も一度はフクちゃんの誕生日を盛大に祝いたい訳よ!‥もうすぐ大学も卒業しちゃうし」 “卒業”という言葉に少しだけ胸がチクリと痛む。いつも当たり前のように近くにいて、こんな風に馬鹿話をしたり、時には真面目に語り合ったりしていた日々も、残りあとわずかなんだと思うと何だか感慨深い。 以前は優介と二人で出かけることもあったが、最近は就活やら卒論やらですっかりご無沙汰していたから、この誘いは正直ものすごく嬉しい。 「前日は特に予定ないし‥分かったよ」 「マジで?!やった!フクちゃん愛してる〜」 「キモい!!」 抱きつこうとする優介の顔面に軽くツッコミを入れるつもりが思いっきりクリーンヒットしてしまい、うずくまる背中を俺は申し訳程度にさすった。 11月16日、AM10:00。電車で数駅のところにあるショッピングモールで優介と合流する。隣に住んでいるんだから一緒に行けばいいものを、「ドキドキ感を味わいたい」という意味不明な理由で現地集合になった訳だが。 今日も優介はかっこいい。先に待ち合わせ場所に来ていた優介を遠目に眺めてそんなことを思って不覚にもドキドキしていると、俺に気づいた優介は爆笑しながら駆け寄ってきた。 「何で固まってんの」 「いや、相変わらずおしゃれだなと」 「だって今日はフクちゃんとデートだもん。気合入れちゃった♡」 「優介さーん、俺帰りますよ」 「ちょっと待てーい!!」 来た方向へ回れ右した俺の腕を慌てて掴み、優介はモールの方へとずんずん歩いていく。 さっきから周りの視線が気になるのは、きっとみんな俺と同じ様に思っているからなんだろうな。 「俺さー、緊張して8時間しか寝てないの」 「すっげー寝てるし!」 「フクちゃんは?」 「んー‥‥7時間」 「超寝てる!」 「お前相手に緊張するかよ」 「ごもっとも。‥でもさ、こうやって二人で出かけるのホント久々だね」 「確かに‥前は服選びとかよく手伝ってもらったよな」 出会ってすぐの頃、『服装が地味!』と言われてよく優介に服屋に連れてい行かれたっけ。あの頃から俺のファッションセンスは大して成長していない気がする。料理と一緒で、頼れるやつが近くにいるとどうも依存してしまうようで‥有り難いやら困ってしまうやら。 目的地に着くと親しげに声をかけてきた店員と挨拶を交わす優介。サラっとそういうことができてしまう辺り、やっぱ凄えなと感心してしまう。俺なら間違いなく挙動不審になるな。 「今日は久々に俺がコーディネートしてあげる!あ、お支払いはフクちゃんよろしく〜」 「え、そこプレゼントじゃないの?!割といい値段するし!!」 大笑いしながらそんなやり取りをして、俺は優介のお気に入りのショップでしばらくの間着せ替え人形と化すのだった。 「‥よし!完璧!」 「ほ、ホントに似合ってる‥?」 「超〜似合ってるよ!大人っぽいし‥きっとイッチー惚れ直しちゃうって!」 グレーのセーターとインナーには黒のカットソー、そして細めのカーゴパンツ。自分ではまず選ばないコーディネートに、鏡に映る自分自身の姿に戸惑ってしまうが、店員のお墨付きに背中を押され‥うん、今回はこれに決めた。 「一日早いけど、誕生日おめでと」 「‥改めて言われるとなんか照れるな」 なんだかんだ言いながら結局支払いは全部優介がしてくれて、俺は浮かれ気分でショップの紙袋を受け取った。 昼メシは俺のリクエストで和食のブッフェレストランへ。皿に盛ったヘルシーな料理を見て「じいさんか!」とお互いツッコみながらも、料理を盛りに何度も往復し、大満足で店を出た。 実家のメシが和食中心で元々和食が好きだったけれど、和食料理が得意な優介のおかげで更に好きに拍車がかかった気がする。 「俺、お前の作る料理好きだよ」 そういえば、いつもご馳走になっていて今までちゃんと言ってなかったかも。この機会に伝えられてよかった。‥と思ったんだけど。 「‥え、なに?お嫁さんにしてくれるの?」 真顔でそう言う優介の脇腹を思いっきりどつくと、何だか急に恥ずかしくなった。 「あ、そうだ!プリクラ撮ろ!!」 「やだよ!」 「えー!記念記念!」 「何の?!」 「俺とフクちゃんの愛の」 「だからキモい」 「ねえキモいってやめて、地味に傷つくから。‥っていうか、ホントはなっちゃんとプリクラ撮りたかったんだけどね、この前思いっきり拒否されたから代わりに」 「代わりかよっ!」 優介に強引に腕を引かれてゲームコーナーへと連れてこられた俺は、渋々プリクラを撮ることに。音声案内に従って恥ずかしいポーズをとらされ、密室とはいえまさに拷問。撮影が終わった頃には11月とは思えないくらい汗だくになっていた。 「うわー、この顔ひっどい!」 「うるさいなー!お前だって」 「加工しよう加工!」 「‥‥‥え、誰これ‥」 「プリクラ怖ぇ‥」 最新のプリクラ機に翻弄されながらあまり上手とは言えない落書きを終えて、写真がプリントされるのを待つ。 ‥と、すぐ横で聞き覚えのある声がした気がした。まさか‥と思って半信半疑で振り向くが、そのまさかで思わず二度見して声をあげた。 「え‥‥‥‥?ナナ?!‥と、なっちゃん?!」 「あ、バレちゃった」 「お前がでかい声出すからだろ」 「えー!出してないよ!」 それは紛れもなく、ナナとなっちゃんで。数秒固まって、ふと我に返った俺は動揺しながら二人に詰め寄った。 「なっ‥何で二人ともいんの?!」 「ゆうすけくんに聞いてー、超楽しそうだったからつけてきちゃった!」 「いつから?!」 「『今日はデートだもん』のところから」 「最初からじゃん!!つーかなっちゃんはいつも止める役でしょ?なんで一緒にいるの?!」 「え、超楽しそうじゃん」 「‥‥‥」 この数年で一番変わったのはもしかしたらなっちゃんなのではなかろうか。以前は馬鹿騒ぎする俺たちを一歩引いて見守っていたけれど、最近は割とノリノリだ。 大真面目な顔でそんな風に言うもんだから、俺は思わず吹き出してしまったのだが。 「どこからどう見ても恋人同士だったよねぇ‥あ、見て見てこの写真、二人とも顔超くっついてるー!」 「そっ、それは優介が無理矢理‥!」 いつの間にか完成したプリクラを手に持ってガン見しているナナに気づいて奪い取ろうとしたけれど、寸前のところでなっちゃんに先を越されてしまう。 「うわ、ホントだ。何だっけ?『俺、お前の作る料理好きだよ』だっけ?」 「言うなー!」 「ホント、仲が良くて引‥妬けるわぁ‥」 「あーーもう!ちがーう!!‥つーか優介、お前もなんとか言えよ!」 「‥フクちゃんごめん、やっぱり俺なっちゃんのほうが好き」 「は?!なんで俺がフられたみたいになってんの!!」 逃げる優介を追いかけ回す俺の横で、ナナとなっちゃんは大爆笑。そして、 「あ、そうそう!オレたちもプリクラ撮ったんだよー!」 「「え?!ください!!」」 息切れ切れにも関わらず、そこは見事にハモった俺と優介なのであった。 コーヒーショップで一服し、モールの広場にある大時計を見上げると針は4時を少し回ったところだった。 「フクちゃんイッチーじゃあね!」 「お前アパート帰らないの?」 「うん、今日はなっちゃんのトコ泊めてもらう〜」 「?」 意味ありげにニヤニヤしている優介の横でなっちゃんが一言。 「壁越しにお前らの声聞くのは御免だからな」 「ーーーっ」 も、もう2年も前の話だぞ‥なっちゃん、相当根に持ってるな‥。 ケタケタと楽しそうに笑いながら手を振る優介となっちゃんを、俺とナナはちょっぴり気まずい笑顔で見送った。 小さく息を吐くと、服の裾をツンツンと引くナナに気づいて視線を向ける。 「修くんとゆうすけくん、超楽しそうだった!」 「ヤキモチ焼いたりする?」 「ううん!全然!」 「あはは、それもちょっと寂しいな」 「そうなの?だってオレ、修くんが楽しそうにしてるの見ると嬉しいもん」 俺は意外に独占欲が強いから、ナナが友達と仲良くしているのを見たり聞いたりすると少しだけ悔しくなることがある。我ながら大人気ないって思うけど、ナナはそんな俺に深い優しさを、心からの笑顔をくれるから、俺はいつもその笑顔に救われるんだ。 「修くん」 「ん?」 「あの服、超〜かっこよかったよ!」 「ホント?じゃあ明日着ようかな」 「うん!着て着て!」 「ははっ、惚れ直すかもよ」 「もう直しちゃった!!」 ナナのストレートな感想に思わず緩む口元を隠しながら、誤魔化すように咳払いを二回。 「‥‥っていうかナナ、今日は夜のバイト終わってからウチくるって言ってなかったっけ?」 「‥あー!そうだった!!ちょっと行ってくる!!修くんあとでねー!!」 「え?あっ‥うん、気をつけて‥‥‥‥‥‥‥‥ふふっ‥あはは!」 モールの広場に一人取り残された俺は、堪えきれず笑い声を漏らす。 恋人と二人きりで過ごすのももちろん楽しいし大好きだ。だけどこうして心を許せる仲間と過ごすのもとても心地が良い。優介やなっちゃん、そしてナナに出会えたことはこの上ない幸運で、キセキで、それはきっと俺のこれからの人生の大きな支えになると思う。 「‥っていうかナナ、バイト間に合うのかな」 たくましくも素晴らしい仲間に囲まれて、俺は幸せ者だ。 おわり

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