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心は氷の如く 6
ヨウは無事なのだろうか。
近衛隊長として新しい王から最初の命を受け、私達をこの北の塔へ閉じ込め鍵をかける手は小刻みに震え、目は怒りと哀しみで赤く染まっていた。
不本意で悔しい気持ちで溢れそうなヨウの手にそっと触れ、煮え立つような気を静めてやった。
落ち着け……私は死なない。
いつまでも鉄格子越しに私を見つめるヨウは、今にも倒れそうなほど弱っていた。
あぁ……そんな弱みを見せては駄目だ、ヨウ!
そんなヨウにキチが近づき、ヨウの腰に手をあて進むことを促し視界から消えていった。キチに触れられた途端、はっと凍るような苦悩の表情を浮かべたヨウのことが気になって仕方がない。
「月輪が……冷たい」
先ほどから胸の月輪が触れられない程、冷たくなっている。まるで凍ってしまったようだ。
もしかして……またヨウに何か良くないことが起こっているのではないか。心配で堪らない。
夜も更けた。隣の部屋からは、病気の王様と赤い髪の女の安定した寝息が聞こえてくる。私はヨウのことが気がかりで眠れないでいた。耳を澄ますと遠くから何か音が近づいて来る。
兵士の足音だ。
そして視界に現れたのは、数人の兵士によって担架に乗せられ担ぎ込まれたヨウだった。私は慌てて近寄り、ヨウの頬に触れると顔色は土気色で凍るように冷たい。
キチ、一体ヨウに何をした? 何が起きたのだ!
「ヨウ! ヨウ! しっかりしろ! 」
「医官よ……」
その時、背後から冷たい声がした。
その人物からは、満ち足りた強烈なエネルギーを感じた。
「……キチ」
キチの躰の周りには小さく雷光が轟き、頬や手には氷がついていた。異様な光景だった。正気でない狂った表情を浮かべるキチに身震いした。
「キチっ貴様っ! 一体ヨウに何をした?」
「おいおい……医官に過ぎないお前がそのような口を聞くのは、いかがなものかな? 口を慎めっ私はこの国の王だぞ」
「ヨウに何をした?」
「美味しかったよ。お前の大事なヨウを喰ってやった! それにしてもヨウが雷功の使い手だったとは知らなかったな。躰も美味しかったが雷功の力も吸い取ってやった。見てみろ、私の躰を! 力が漲っている! ふふふっ。ヨウはどうやら私に更なる力を与えてくれるようだ!」
「な……なんてことを……」
「だが困ったことが起きてな。抱きすぎたのか奪いすぎたのか、既に瀕死の状態だ。ジョウ、お前が手当しろ! 手段は自由だ、はははっ、そんな凍った躰は抱くに抱けないだろうがな。私のものを溢れる程たっぷり注ぎ込んでやったし、はははっ」
そう言い捨て、キチと兵士は息も絶え絶えなヨウを残し、北の塔の牢獄ともいえる冷たく暗い部屋から去って行った。
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