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【最終話】力の分かれ道 2

 カイと背中合わせに立つと、俺の雷攻が稲妻となって二人を深く包んだ。俺達はひとつの赤い炎の塊のようになって、燃えたぎる強力な力を生み出した。  カイのお陰だ。俺の力はキチに吸い取られ弱まっていたのに、生命力溢れるカイの躰を循環させることで、雷功が再び最大限に使えるようになった!  一方キチの方も、強烈な閃光と共に青白い光で躰を包んでいた。 「くそっ死ね! 私が王だ! 永遠の王は私だ。邪魔するものはすべて葬ってやる! 」 「キチ……欲張るな! お前は十分に得たはずだ。身を引くことも考えろっ! 」 「そんな選択肢、私には存在しない! 」  赤い光と青い光の対峙。  どちらの力も互角で、一歩も踏み出せない。 「くっ……」 「むっ……」  強烈な力を躰から放っているせいか、一瞬目が眩む。 「ヨウしっかりしろっ」  カイの逞しい腕が俺をがしっと掴み、体勢を立て直してくれる。  キチはどうだ? 様子を伺うと明らかに異変を感じた。  キチの表情が先程まで不敵に笑っていたのに、今は動揺・焦り・苦悶で満ちている。 「うわっ! あああっ! 」  チカチカと光る青い光線がキチ自身の首を絞めているように見える。キチも自分の喉に両手をあてて必死にもがいている。息苦しそうに口を金魚のように必死にパクパクと開け……みるみる顔が土気色に染まっていく。  その異様な様子を訝しんだ。  一体、どうした? 「キチ? 」 「ごほっ! ごほっ……うっ…」  キチはそのまま膝を折り、床に倒れてしまった。  一体に何が起こった?  俺達の光が勝ったのか。  いや……力は互角だった。  どちらが勝っても負けても、おかしくない状況だった。 「おいっ! キチ? 」  すぐにカイが駆け寄って、キチの首に手をやって確かめた。 「……死んでいる」 「何だって?……あぁ……そうか……キチは結局自分の力に首を絞められてしまったのか」  ほっとしたのか俺も体力の限界だったようで、床にそのまま崩れ落ちてしまった。 「ヨウっヨウっ! しっかりしろ!」  遠くでカイの声がする。  もう限界だ。  疲れた……少し眠らせてくれ。 **** 「ヨウ……頑張ったな」  優しい声で、誰かが躰をそっと撫でてくれている。この優しい声、優しい手つき、労わるような温もりはジョウだ。誘われるように目覚めると、やはりジョウの温かいまなざしが近くにあった。声が掠れて上手く出せなかったが、何とか振り絞って大事な人の名を呼んだ。 「ジョウ……」 「ヨウ……目覚めたのか。心配するな、もう大丈夫だ」 「キチは? 」 「あのまま死んだよ。彼は自分の力を制御出来なくなって自滅したのだ」 「……やはりそうだったのか」 「ヨウ……君がキチに与えた雷功の力をキチは扱いきれなかったのだ。自分自身が氷功という秘技を十分に持っているのに欲張ってヨウの力まで欲した罰が下ったのだろう、もう安心しろ。もう君に手出しをするものはいない」 「そうか……」  本当に心の底から安堵した。あの臭気を漂わす不気味なキチに躰を弄られることは、もうない。俺はもう誰にも穢されないで済む。ジョウだけに……ジョウだけに与えたい……この躰は。そう思うと熱い涙が込み上げて視界が霞む。そんな俺の目元の涙を、ジョウが指でそっと拭ってくれ、慈愛に満ちた口づけをしてくれた。  あぁ俺は……この口づけをずっと待っていた。  ジョウは俺を浄化してくれる。彼に触れられるたびに、いつもそう思っていた。  キチに何度も穢され自尊心もズタズタにされながらも、己を恥じ自害を選ばなかったのは、ジョウと生きたかったからだ。  こうやって再び再会できた今……もうジョウがいなくては生きていけない。  もう二度と離れたくない。 「ヨウ、これからはずっと一緒だ。私たちは王様も認めてくださった仲だ、安心しろ」 「ジョウ……そうだな。やっとだ。やっとここに辿りついた」 「あぁ」 「ジョウがいる。ジョウが俺に触れる。それが俺が生きていると実感できる時だ。息をしていると感じる時なんだ! もう絶対に離さないっお前を」 「ヨウ……私もずっとヨウの傍にいる」  二人の口づけはどんどん深まっていく。 「あーコホンコホン」 「あっ!」  ふっと横をみるとカイと王様が顔を赤くして、所在なげに立っていた。 「あのね、ヨウは明日の朝まで自由に過ごしていいよ、さぁカイ向こうに行こう」 「王様……」  王様は俺の手の平にそっと口づけた。あどけない仕草で。 「ヨウ……良かった。キチを倒してくれてありがとう。僕はヨウが大好きだよ。だからジョウとヨウが一緒にいてくれるのが一番うれしい。二人で僕のことをずっと守ってくれ。あっ……カイもだよ。ふふっ」  扉が閉まり、王様とカイが嬉しそうに談笑しながら去っていく。 「ヨウやっと二人きりだな」 「あぁずっと我慢していた……その……また俺を抱いてくれるのか」 「当たり前だ! 今宵は寝かさない」 「あぁ俺も寝ないつもりだ」 「二人にしか奏でられないあの音が聴きたいな。久しぶりに」  そういってジョウは着ている衣をばさりと脱ぎ捨て、続いて俺の衣服をすべて脱がした。  お互い裸になり、お互いの肌をぴったりと重ね合う。  確かめるように肌を慎重に合わせて行く。  胸元に月輪の首輪だけを身につけて……  カランー  カランー  あの音が聴こえる。  あの日初めて俺の部屋で抱き合った時に、聴こえた清らかな月輪がぶつかり合う音がする。 「この音……やはり、清められるな」  俺の躰にはキチによってつけられた新しい痣がいくつも出来ていた。その傷を労わるように、そっとジョウが唇を這わせていく。 「んっ……ジョウそこには触れるな」 「ヨウは綺麗だよ」 「……俺は綺麗じゃない」 「いや……綺麗なんだ。心も躰もヨウは真っすぐで清らかなんだ」 「もう悲しいことは起きないよな? 」  確かめるように、俺はジョウの頬を撫でながら問う。 「あぁ悲しい時はもう終わりだ。これからは二人で歩む新しい時間だ」  小さな窓から空を見上げると、満月が出ていた。  前王に抱かれながらキチに抱かれながら、いつも俺は気が狂わない様に、空の月をじっと見つめていた。  苦痛と羞恥で涙が滲み霞む視界の月は、いつも悲し気に白く光っていた。  しかし、今日すべてが解決しジョウに躰を温められながら抱かれ、見上げる月は、もう悲しい月ではなかった。  生まれたてのような新しい月が、夜空に昇っている。  この月は……俺達のようだ。  躰と躰を重ね合い、愛を確かめ合い、清め合っている俺達だ。まるで月が重なるように、俺たちはお互いを求めあっていく。  心を躰もお互いの想いで満たしあう。  そんな営みを繰り広げて行く。  優しくジョウの胸に抱かれ、ジョウのものを受け止め、お互いに高め合って、はじけてを繰り返し……繰り返していく。 「ジョウ……ジョウ」  名を呼べばすぐに応じてくれる。優しい口づけを与えられ、手で口で愛撫され蕩けて行く俺の躰。 「すべてをお前にやる。お前も俺にすべてをくれよ」 「ヨウ……」  こんな相手と巡り会えたなんて。  永遠に悲しい人生だとずっと思っていたのに、信じられないよ。  ジョウ…本当にありがとう。  悲しいだけの月は、俺の心には、もう存在しない。 【悲しい月】了 **** あとがき こんにちは!志生帆 海です。 【月夜の湖】に続き、【悲しい月】も無事最終回を迎えました。 書いていたお話しが立て続けに終わってしまうと寂しいものですね。 応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。 頂けたリアクション、イイネ、アクセス、コメントどれも更新の力となりました。 ヨウは苦難の連続でしたが、これからはジョウとずっと生きていきます。 可愛い王様もいずれ逞しい王となり…カイと??という展開もいいかも。 それにしても、赤い髪の女がやって来て、時空が変わってよかった。 そうしないとヨウはジョウとの再会を願ってカイに月輪を託し、生きた屍をなってしまうところでした。 【月夜の湖】では洋月を失った丈の中将の嘆き。 丈の中将は何度も生まれ変わっても洋月のことを探したことでしょう。 そして【悲しい月】ではジョウを失ったヨウの嘆き。 ヨウも何度も生まれ変わってジョウを探したのです。 そんなお互いの再会を願う力が、【重なる月】で丈、洋として再会したのかもしれませんね。 二つの物語が一つに重ならねば解決しなかった、そう思っています。 本当に長い間、【悲しい月】にお付き合いありがとうございました。 もう少し後日談が続きます。

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